十三番目の料金所

 雨は、南栄のネオンを路面に溶かしていた。

 午後十一時三分。乾宗一は、半分閉まったシャッターをくぐり、秋津モータースの作業場へ入った。

 天井から吊られた裸電球の下で、銀色の古い二ドア車が腹を見せている。その下から、油に汚れた女の手が伸びた。

「そこ、踏まんといて。工具あるから」

 乾は足を止めた。

「借金取りに注意する前に、自分の足元を気にしたほうがええ」

 車の下から、秋津ナオが滑り出てきた。二十六歳。夜間の医療便を請け負い、山向こうの検査施設まで血液や薬品を運んでいる。父親が遺した工場と、この二十年落ちの車を守るために働いていた。

 乾は折り畳み傘を閉じ、黒い鞄から一枚の計算書を出した。

「元金、六百二十万。そこへ延滞分と諸費用が乗って、今日現在の残りが千八百九十万。明日の正午を越えたら、工場の権利は契約どおり移る」

「元は六百二十万やろ」

「借金は車と違う。止めてても距離が伸びる」

「車のほうが、まだ正直やな」

 ナオは立ち上がり、手を布で拭った。

 乾は怒らなかった。怒鳴るのは、言葉に値段をつけられない人間のすることだと思っていた。

 彼は銀行でも、消費者金融でもない。焦げついた債権を安く買い、払える者からは取り、払えない者とは担保を組み替える。法の明るい場所と暗い場所の境目で、二十年以上、数字だけを信じて生きてきた。

「明日の正午や。そこまでは待つ」

「待たんでええ」

 ナオは作業台の引き出しから、黒い紙片を取り出した。

 切符ほどの大きさだった。表面には、銀色の文字が浮かんでいる。

 ――第十三清算路。

 ――走者、債務者。

 ――同乗者、債権者。

 ――午前零時より十三分。

 ――完走時、債務一件を全額清算する。

「午前零時十三分には、残りはゼロになる」

「どこの詐欺師にもろた」

「親父の工具箱に入ってた。昨日までは、ただの黒い紙やった。今夜、字が出た」

 乾は鼻で笑い、紙片を受け取った。

 裏返した瞬間、笑いが消えた。

 そこには青いインクで、ひとことだけ書いてあった。

 ――債権者は必ず同乗のこと。

 署名は、乾哲郎。

 二十七年前、白瀬峠で失踪した父親の名だった。

 車も遺体も見つからなかった。山中の旧料金所に、空の鞄だけが残されていた。鞄の底には、穴の開いた借用書と、止まった腕時計があった。

 乾は紙片を鞄に戻した。

「峠まで、何分や」

「この雨なら二十五分」

「二十分で行け」

 ナオは、初めて少し笑った。

「同乗する気になったん?」

「紙切れ一枚で千八百九十万が消えるなら、見届ける価値はある」

「怖いんや」

「債権者は、確認を怠らんだけや」

 銀色の車は、濡れた幹線道路を抜け、山へ向かった。

 車内は狭く、古い布と油の匂いがした。派手な計器も、大きな羽根もついていない。エンジン音は低く、余計な振動がなかった。

「速い車には見えんな」

「速くなくてええ。遅くならんかったら」

 ナオは前を見たまま答えた。

 街灯が減り、民家が途切れた。白瀬峠の入口には、通行止めの柵が置かれている。旧道は十年以上前に閉鎖されたはずだった。

 ナオが減速すると、黒い紙片が乾の鞄の中で震えた。

 柵の向こうに、一つ、また一つと橙色の灯がともった。

 ありえないはずの料金所が、雨の中に姿を現した。

 屋根は錆び、窓ガラスは曇っている。だが、料金所の中には灰色の制服を着た老婆が座っていた。顔は皺だらけなのに、爪だけが新しい硬貨のように光っていた。

 ナオが窓を開ける。

「清算ですか」

 老婆が訊いた。

「そうや」

「原本を」

 乾は借用書を出した。東成クレジットから三百十万円で買い取った、秋津家の債権原本だった。

 老婆は紙を確かめ、十三個の丸い穴が並ぶ金属板にはさんだ。

「走者は債務者。同乗者は債権者。追突された時点で担保を回収。路外逸脱は期限の利益を喪失。途中下車は同乗者による代位弁済となります」

「担保は工場やな」

 乾が訊くと、老婆は首を横に振った。

「今後お持ちになる時間です」

 料金所の先で、黒い大型車の尾灯が二つ、赤くともった。

 ナンバーはない。排気音もない。ただ、濡れた路面に影だけを落としている。

 車内の時計が、午前零時を示した。

「発車してください」

 遮断棒が上がった。

 ナオはクラッチをつなぎ、銀色の車を闇へ放った。

 最初の直線で、黒い車は見えなくなった。

 乾はダッシュボードに浮かんだ数字を見た。

 18,900,000。

 見覚えのある残高だった。

「趣味の悪い仕掛けや」

「つかまって」

 右の急カーブが迫る。ナオはかなり手前でブレーキを踏み、前輪へ重さを移した。車体が沈み、ハンドルを切ると同時に、後ろがわずかに外へ出る。アクセルを開けた瞬間、車は出口へ向かって真っすぐ押し出された。

 速さを見せる走りではなかった。速度を捨てない走りだった。

 第一料金所が現れる。遮断棒は上がっていた。

 通過した瞬間、金属板の穴が一つ、赤く光った。

 ダッシュボードの数字が一気に減る。

 17,900,000。

「一か所で百万か」

 乾が言った直後、数字が動いた。

 17,907,000。

 17,914,000。

 17,921,000。

「増えとるぞ」

「利息?」

「一秒で七千。十三か所抜けても、追いつかん計算や」

 後ろから、白い光が車内を塗りつぶした。

 黒い車が来ていた。

 音もなく、坂道を滑るように迫ってくる。距離が十メートルを切ると、乾の胸ポケットに入れた財布の中で、硬貨が一斉に鳴った。

「右、次の次がきつい」

「知ってる」

「知ってる道に、知らん料金所が立ってるんや。今までと同じと思うな」

 ナオは舌打ちしたが、ブレーキの位置を一台分だけ早めた。

 次の曲がり角の先で、ガードレールが途切れていた。いつものラインを通っていれば、そのまま谷へ落ちていた。

 ナオは車を内側へ寄せ、崖すれすれを抜けた。

 黒い車は同じ穴へ落ちることなく、霧の中を平然と曲がってきた。

「なんや、あれ」

「集金人やろ」

「知り合い?」

「知り合いやったら、なお悪い」

 第二、第三の料金所を通過するたび、残高は百万ずつ減った。だが、その間にも数字は脈を打つように増え続けた。

 第四料金所の手前で、車載ラジオが勝手についた。

 ざらついた雑音の向こうから、男の声がした。

『宗一』

 乾の指が、膝の上で止まった。

 幼いころ、借金の取り立てから帰った父親は、いつも煙草と雨の匂いがした。その声を、乾は忘れたつもりでいた。

『よう来たな』

「乾哲郎か」

『親に向かって、ずいぶんな呼び方や』

 黒い車が右側へ並んだ。

 窓の向こうに、運転席の男が見えた。

 失踪した夜と同じ、四十四歳の乾哲郎だった。

 髪も、頬の傷も、写真のままだった。ただし、目だけは長いあいだ光のない場所に置かれた金属のように濁っていた。

 ナオが息をのむ。

「あの男……」

「見るな。前や」

『その娘の親父を追って、この道へ入った。二十七年前にな』

 ラジオの声が続いた。

『あの男は逃げた。車も命も持って帰った。代わりに、未来を置いていった。わしは債権を手放さんかった。せやから、ここで集金人になった』

 ナオの握るハンドルが震えた。

「親父は、この峠を走ったあと、急に老けた。四十二やったのに、病院では七十過ぎに見えた。三年後に死んだ」

『時間は回収した。せやけど、残高が足らんかった。借りは娘へ移った』

「ふざけるな!」

 ナオが叫び、アクセルを踏み込んだ。

 銀色の車が黒い車の前へ出る。

 だが、怒りはタイヤの限界を広げない。次の左カーブで車体が外へ流れ、後輪が白線を越えた。

「踏むな!」

 乾が低く叫んだ。

 ナオは反射的にアクセルを戻した。車が一度沈み、前輪が路面をつかみ直す。ガードレールまで、指一本ほどの隙間だった。

「怒るんは後にせえ。入口で無理した分は、出口で払うことになる」

「説教してる場合?」

「金も車も同じや。払う場所を間違えたら、全部持っていかれる」

 第五料金所を抜けた。

 残高は十四百万台へ下がり、すぐまた増え始めた。

 黒い車は、ぴたりと後ろについた。

『宗一。娘を渡せ』

 父の声がした。

『回収が済めば、わしは降りられる。お前は工場を取れる。誰も損せん』

「二十七年もおって、まだその勘定か」

『貸したもんは返してもらう。それだけや』

「貸したんは六百二十万や。二十七年やない」

『数字を決めるんは、貸す側や』

「違うな」

 乾は鞄を開き、書類を膝の上へ広げた。

「数字を決めるんは、最後まで計算した側や」

 雨脚が強くなった。

 ナオは第六料金所を抜け、古い石垣の間へ車を滑り込ませる。乾は車内灯をつけ、借用書の裏面を追った。

 秋津家の父親が借りた元金は六百二十万。

 その後、債権は三つの会社を渡り歩いている。更新料、調査料、保全費用、特別管理費。名前を変えた利息が、元金の上へ何層も塗られていた。

「グローブボックスに、親父の領収書がある言うてたな」

「ある。母親が捨てずに置いてた」

 乾は箱を開けた。古い車検証、割れたサングラス、その下に、輪ゴムで束ねた領収書があった。

 車が揺れるたび、紙が膝から落ちそうになる。

「運転中に数えるつもり?」

「お前は道を数えろ。俺は金を数える」

 第七料金所。

 残り六分二十二秒。

 黒い車が後ろから銀色の車へ触れかけた。ナオはブレーキを一瞬だけ踏み、相手がぶつかる寸前に加速する。黒い車の鼻先が空を切った。

「一枚目、二万。次、三万。五万。二万……」

 乾は領収書の日付と金額を足していく。

 ナオの父親が払った分。

 母親が払った分。

 ナオ自身が十九歳から払った分。

 合計は、七百三十二万円。

「元金は、とっくに超えとる」

「でも、利息が」

「払った時間まで利息に入れる気はない」

 第八料金所の手前で、道路が二つに分かれた。

 左は、ナオが知る本来の峠道。

 右には、白い看板が立っている。

 ――近道。追加費用一千万円。

「左や」

 乾が言った。

「右のほうが短い」

「短い道ほど、値札が見えにくい」

 ナオは左へ切った。

 黒い車は右へ入った。次の瞬間、山の上から回り込み、はるか前方に現れた。

「ほら、抜かれた」

「抜かせとけ。あれは先の距離を借りてるだけや」

「そんな理屈で追いつける?」

「借りた距離は、どっかで返す」

 左の道は狭く、荒れていた。だが、ナオは路面の継ぎ目を読み、車を跳ねさせずに進んだ。

 前方で、黒い車の尾灯が急に近づいた。

 近道の出口に、閉じた遮断棒があったのだ。黒い車は止まれず、棒をすり抜けたものの、その速度を失っている。

 ナオは横を抜けた。

「ほんまに返した」

「借りたもんはな」

 第九料金所を通過。

 残り四分十一秒。

 乾は借用書の余白に、油性ペンで文字を書き始めた。

 父の声が鋭くなる。

『何を書いとる』

「債権放棄」

『やめろ!』

「本債権を、元金、利息、費用その他名目を問わず、全額免除する」

『お前は三百十万で買うたんやぞ!』

「せやな」

『三百十万、丸損や!』

 乾は署名し、鞄から会社印を出した。

「損が金で済むうちに、損しとく」

『きれい事で商売ができるか!』

「二十七年も帰ってこん男に、商売を教わる気はない」

 印を押した。

 その瞬間、ダッシュボードの残高が止まった。

 13,480,000。

 数字が一度明滅し、ゼロになった。

 黒い車の塗装に、ひびが走った。

 ラジオから、老婆の声が流れた。

『債権消滅を確認しました。清算手数料を申し受けます』

「手数料?」

『十三年』

 車内の時計が、午前零時九分を示した。

 山全体が鳴った。

 後ろの道路から、料金所が一つずつ消え始めた。照明が落ち、路面が闇へほどけていく。

『午前零時十三分までに退出できない場合、債務者および債権者は当路の管理資産となります』

「先に言え!」

『契約書に記載しております』

 黒い紙片の裏に、針ほど細い文字が浮かんでいた。

 乾は読まずに丸めた。

「あと四分。残り四つや」

 ナオは答えず、ギアを一段落とした。

 第十料金所を抜けたところで、黒い車が再び追いついた。

 車体はひび割れ、窓の向こうの父親も老い始めている。頬が落ち、髪が白くなり、それでもハンドルから手を離さない。

『宗一。止まれ』

「もう回収する債権はない」

『債権がなくなったら、わしもなくなる』

「最初から、そうするべきやった」

『お前に何が分かる! 借金取りが一度でも情を見せたら、次から誰も払わん!』

「払わせるんと、人生ごと取るんは別や」

『同じや!』

 黒い車が横から押してきた。

 銀色の車のドアがきしみ、タイヤが路肩の水を跳ね上げる。

「振り切れん!」

「振り切るな。先に行かせろ」

「また?」

「借りた距離は返す。親父に教えたる」

 次の右カーブは、入口が広く、途中から急に曲がり込む。追い越すなら内側へ入るのが普通だった。

 ナオはわざと早めに内側へ寄せた。

 黒い車も、さらに内側へ鼻をねじ込む。

 曲がり始める直前、ナオはブレーキを残したまま外へ車を逃がした。

 黒い車は内側へ入りすぎた。出口がない。速度を殺しきれず、壁のような岩肌へ向かう。

 その一瞬、父親と乾の目が合った。

 父親は驚いた顔をしたあと、ほんの少し笑った。

 そして、自分からハンドルをさらに切った。

 黒い車は岩へぶつからなかった。影のように岩の中へ沈み、尾灯だけが二度点滅した。

 ラジオから、かすれた声が聞こえた。

『利息は、長かったな』

 それきり、雑音も消えた。

 第十一料金所。

 残り一分四十八秒。

 第十二料金所。

 残り四十一秒。

 最後の直線の先に、第十三料金所が見えた。

 だが、道路の中央が崩れ、片側一車線ほどしか残っていない。雨水が川のように流れている。

「行けるか」

「行けるかどうかやない」

 ナオはハンドルを握り直した。

「行ったあと、戻せるかや」

 彼女は速度を落とした。

 乾が見る。

「遅いやろ」

「遅くならん走りをするんや」

 ナオは崩れた手前で車を真っすぐにし、必要な分だけ加速した。タイヤは水を切り、細い路面を外さない。派手な横滑りも、耳を裂くような加速もなかった。

 銀色の車は、一本の針のように第十三料金所を通り抜けた。

 時計は、午前零時十二分五十九秒で止まった。

 背後で、山が闇へ沈んだ。

 乾が目を覚ますと、朝日がフロントガラスに差していた。

 銀色の車は、白瀬峠の旧道入口に止まっている。料金所も、黒い車もない。通行止めの柵だけが、錆びたまま朝露に濡れていた。

 ナオは運転席で眠っていた。

「起きろ」

「……何時?」

「七時過ぎや」

 ナオは安堵し、エンジンをかけた。

 ラジオが自動で入る。

『七月十二日、火曜日。今朝のニュースです――』

 続いた年号を聞いて、二人とも動かなかった。

 もう一度、時報が流れた。

 西暦二〇三九年。

 ナオは笑おうとした。

「ラジオ、壊れたんかな」

 乾は自分の携帯電話を見た。圏外。画面の日付も、二〇三九年七月十二日になっている。

 ふもとの町へ下りると、知らない建物が増えていた。コンビニの看板が変わり、空き地には集合住宅が建ち、交差点の形まで違っている。

 銀色の車だけが、昨夜のままだった。

 秋津モータースの看板は残っていた。

 ただし、文字は日に焼け、シャッターの塗装は剥がれている。

 ナオが車を降りた。

 隣のクリーニング店から、杖をついた老婆が出てきた。ナオを見た途端、持っていた洗濯物を落とした。

「ナオちゃん……?」

 ナオの唇が動いた。

「米田のおばちゃん?」

 老婆は泣きながら、何度も頷いた。

 ナオの母親は、昨年の冬に亡くなっていた。

 借金の免除通知は、ナオが消えた翌朝、乾の会社印つきで届いたという。工場は取られずに済んだ。母親は十三年間、一日も看板を下ろさなかった。

「帰ってくるかもしれんから、って」

 老婆は、工場の鍵と木箱を渡した。

 箱の中には、十三通の封筒が入っていた。

 毎年、ナオの誕生日に、母親が一通ずつ書いた手紙だった。

 一通目には、こうあった。

 ――借金は消えた。あんたまで消える必要はなかった。

 十三通目には、こうあった。

 ――今年も帰ってこんかった。帰ってきたら、遅かったと言ってやる。せやけど、帰ってきたら、まずご飯を食べさせる。

 ナオは作業場の床に座り込み、声を出さずに泣いた。

 乾は何も言えなかった。

 清算手数料、十三年。

 取られたのは、二人の寿命ではない。

 二人を待った人間の時間だった。

 乾の事務所は、十三年前に閉鎖されていた。

 机も帳簿も、買い集めた債権も残っていない。失踪者になった男の会社は整理され、取引先も、部下も、それぞれ別の人生へ進んでいた。

 乾の手元に残ったのは、古い会社印と、父親の腕時計だけだった。

 時計は白瀬峠を出た朝から、再び動いている。

 それから三か月後。

 秋津モータースのシャッターには、新しい文字が加わった。

 ――秋津モータース/乾生活整理相談。

 ナオは車を直し、乾は人の話を聞いた。

 払える金と、払えない金。

 返すべき金と、返さなくていい金。

 契約に書かれた負債と、誰かを待たせた時間。

 以前の乾なら、すべて同じ列に並べた。

 今は、数字を出す前に、必ず相手の時計を見るようになった。

 ある雨の夜、閉店間際の工場へ、若い男が入ってきた。

 濡れた手に、黒い紙片を握っている。

「相談、ええですか」

 乾は紙片を受け取った。

 表面に銀色の文字が浮かんでいた。

 ――第十三清算路。

 ――走者、債務者。

 ――同乗者、債権者。

 壁の時計は、午後十一時四十七分。

 ナオが奥から出てきて、黒い紙片を見た。

「車、出す?」

 乾は首を横に振った。

「今度は走らん」

 彼は会社印を机に置き、若い男の向かいに座った。

「午前零時まで十三分ある。まず、元金から聞こか」

 工場の外で、雨が強くなった。

 遠い山の中腹に、あるはずのない橙色の灯が一つ、ともった。