第70話 第九章「止める合図」後編
工場は止まらない。
弁も閉じない。
ただ、誰もぶつからず、三人が地下入口へ届いた。
轟。
迅。
タマキ。
鉄志が追いつく。
「俺も行く」
「地下班は三人」
澪。
「弁を知ってる」
「轟も知ってる」
「図面でだ」
「あなたが入るなら、誰が炉前の残熱を見る」
「工員がいる」
「任せる?」
鉄志は炉前を見る。
若い工員が温度札を上げた。
自分たちで見ている。
「任せる」
鉄志が言った。
「地下班、四人へ変更。署名」
澪は変更票を出す。
「俺が?」
「あなたが希望した」
「おまえの命令だろ」
「入る許可を出すのは私。希望したのはあなた。両方書く」
「面倒だな」
「生きて戻る方が面倒」
鉄志は左手で署名した。
澪も署名する。
タマキが地下扉の受領札を確認する。
「送り主、保全室。受取人、地下弁班。目的、主圧手動停止。帰りの受取人は?」
「地上」
迅。
「誰」
澪は答える。
「風祭澪」
「四人とも?」
「四人とも」
「受領期限」
圧力計、九・九。
澪は時計を見る。
「十三時まで」
「過ぎたら」
「帰還笛。作業未完でも戻す」
鉄志が反発する。
「未完で戻れば破裂する」
「戻らなければ人が破裂する」
「誰が止める」
「その時は、次の判断を私が署名する」
澪は地下扉を開けた。
熱い風が上がる。
四人が入る。
タマキの緑の帽子が最後に消える。
扉が閉まった。
工場の音は、もう半分以下だった。
残った圧力だけが、止められた機械の中を走っている。
澪は右耳の補助具を外し、地下扉へ左掌を当てた。
振動。
四人の足音は区別できない。
それでも、帰ってくる方向だけは、手を離さずに待てる。