第98話 第十一章「解除」後編

 扉が開いた。

 力ではない。

 一人が継続を選び、責任者が反対を書いたまま署名した。

 最初の登録が終わる。

 次に秋枝。

「店は終える。家と診療は残す。警備は住居廊下だけ。解約手数料は争う」

 扉が開く。

 三一。

「店は終える。部屋を残す。名札は俺の。母ちゃんの借金は、内訳を見るまで払わない。診療はまだ決めない」

「未決を登録」

 槙司が右手で入力する。

 扉が開く。

 波佐間。

「店、警備、窓の保証を残す。家と診療は別。家を店の担保にしない。後で変える方法を先に教えろ」

 扉が開く。

 一人ずつ。

 同じ扉が、違う言葉で開く。

 午前七時三十一分。

 最後の登録が終わった。

 市場の朝日が、上階の窓から中央階段へ入る。

 分離した鍵が動く。

 住居札。

 店舗札。

 診察券。

 警備加入札。

 同じ真鍮の輪へ通されていた札は、別々の紐へ移る。

 秋枝は住居鍵と診察券を持つ。

 店札は返却箱へ。

 三一は真鍮の《青果31》を自分のポケットへ戻し、新しい住居札には《31》だけを書く。

 波佐間は店舗札と警備札を二本の紐へ分ける。

 刃物研ぎの老人は、何も分けない。

 古い輪をそのまま持つ。

 選ばなかった人もいる。

 凱は全員の結果を読み上げる。

 勝者の名前ではなく、選択の数。

「全体継続、一。部分継続、三十七。分離後終了、九。保留、四。本人確認未完了、一。異議継続、十六」

 拍手は起きない。

 市場は開店準備で忙しい。

 魚屋が氷を運ぶ。

 乾物屋が値札を替える。

 診療所が朝の受付を始める。

 契約が変わっても、魚は腐る。

 凱は読み上げ票の最後へ、自分の役割終了を書いた。

《分離時刻読み上げ担当終了。九月二十三日七時三十七分。獅堂凱》

 元王の署名ではない。

 命令を出さず、他人の決めた時刻を読んだ者の署名。

 登録室の扉は開いたままだ。

 誰も壊していない。