第113話 第七章「タマキの路線図」前編
十月十七日 午後一時三十分
地図は、道を知っている人が描くものではない。
知らない場所を、知らないまま残せる人が描くものだ。
「二、二、三」
環玉樹は九両目の床へ左耳をつけた。
車輪の音が、頬骨から頭へ入る。
かたん。
かたん。
かた、かたん。
次は普通。
かたん。
かたん。
また、二、二、三。
「何してる」
三一が覗き込む。
「線路」
「床だろ」
「下に線路」
「見える?」
「聞く」
「耳、汚れる」
「拭く」
「それでいいのか」
「床は拭いても線路」
三一は納得しない顔で、隣にしゃがんだ。
二人分の耳を置く場所はない。
「聞きたい」
「俺が言う」
「自分で聞きたい」
「列車、揺れる」
「タマキも聞いてる」
「仕事」
「俺も証言者」
「仕事?」
「今決める」
タマキは少しずれた。
三一が床へ耳をつける。
二人の頭が、座席の下へ並ぶ。
乗客が避ける。
凱が通路の端から見ている。
「何が聞こえる」
三一。
「二、二、三」
「俺、全部がたん」
「足の骨で聞く」
「耳じゃないの」
「両方」
三一は靴を脱ぎ、裸足を床へ置いた。
「冷たい」
「それは床」
「線路は」
「次」
車輪が継目を越える。
かたん。
かたん。
かた、かたん。
三一の足指が動く。
「最後、長い」
「そう」
「何で」
「古い線が横にある」
「乗ってないのに鳴る?」
「地面が返す」
「本当?」
「たぶん」
三一が顔を上げた。
「たぶん、使うの」
「今、調べる」
「分からないって言った」
「分からない場所を決めた」