第546話 第七章「対称な不公平」後編

「誰が監査する」

「工員本人」

「帳簿を読めない者は」

「巴の平文係。別の者を選んでもよい」

 まだ決まっていない協定のために、既に賃金表が増える。

 紬は笑わなかった。

「水の話が、また水じゃなくなった」

「最初から、水だけの話じゃない」

 価が腰の装具を押さえて椅子へ座る。

「水に値段があるんじゃない。止めた手と、動かした手と、待たされた手に、それぞれ値段が付く」

「名言っぽい」

 紬が言う。

「請求書っぽく言った」

「そっちの方が信用できる」

 試験結果へ、《水量外の負担》という欄が加わった。

 夜九時、試験結果が掲示された。

 成功したもの。

 失敗したもの。

 継続するもの。

 中止したもの。

 損失。

 賃金。

 水量。

 修理時間。

 全部、別の欄だ。

 総合点はない。

 上流代表は、まだ四十五パーセントを拒否している。

 下流代表は、二十二リットルを最低ではなく不足と呼ぶ。

 商船は隔日運航の賃金保証を求める。

 病院は患者数変動条項を要求する。

 合意は遠い。

 だが、同率三十五パーセント案へ戻ろうという声は、朝には聞こえなくなった。

 数字の横に、誰が困るかが書かれたからだ。

 午前零時、水位予測表が更新された。

 上流は、前日より百七十三減。

 下流は、仮修理によって漏水が一時間当たり八・四減。

 病院は、必要量を維持。

 商船は、二便欠航。

 短期作業員二十三人の賃金は、まだ未払い。

 朝は最後の欄へ、自分の名前を書いた。

《国家標準へ統一しない判断――御厨朝》

 その下へ、理由を書く。

《同じ形式が、異なる損失を備考欄へ落とすため》

 さらに、その下へ書く。

《結果の妥当性――未判定》

 黒い杖が、机へ倒れかけた。

 朝は右手で受け損ねる。

 紬が先に拾った。

「手伝ったら、朝の歩く責任を奪う?」

「杖を拾う責任だけ、渡した」

「別々」

「そう」

「面倒」

「そう」

 紬は杖を返す。

 朝は受け取る。

 同じ長さの杖でも、朝と紬では使い方が違う。

 だから、一本を半分ずつ持って歩く案は出なかった。