第574話 第九章「迅の空白」後編

「中央の制度を、名前と終了と拒否つきで使えばいい」

「中央を否定していない?」

「場所としては否定してない。決裁が全部を飲むことを止めたい」

「誰が、どこまでを全部と判断する」

「その仕事で影響を受ける人」

「全員?」

「全員じゃない時もある」

「また曖昧」

「三秒で全部決める答えがあるなら、おまえがもう使ってる」

 法廷が少しざわつく。

 冬城の銀具へ視線が集まる。

 迅は、しまったという顔をしない。

 挑発するつもりもなかった。

 ただ、具体的な答えを求められすぎて、具体的な相手を見た。

 真琴が確認する。

「証人。いまの発言は、冬城評議官の能力使用を誘発する意図ですか」

「違う」

「能力の性質を、結論へ先取りして使う意図は」

「ない」

「では、《三秒で全部決める答え》を一般的表現へ訂正しますか」

 迅は考える。

「訂正しない。冬城が使える能力を知ってて言った。誘発するつもりはなかったけど、関係ないふりはしない」

「記録します」

 冬城は、怒らない。

「あなたは、私が最終決裁を使うと恐れている」

「恐れてる」

「なぜ」

「人が楽になるから」

「悪だからではなく?」

「悪い能力って決めたら、使った人を殴れば終わる」

「私を殴りたい?」

「昔は」

「今は」

「頬が痛い」

 傍聴席に、また短い笑い。

「冗談で逃げる」

「逃げてる」

 迅は認めた。

「本当は?」

「おまえを殴って、全部おまえのせいにしたくなる」

 冬城の目が、初めて少しだけ見開かれる。

「それを、しない?」

「今日の仕事じゃない」

「仕事でなければ」

「分からない」

 迅は証人席の三枚目、波形の板を押した。

 百舌忍が使った板。

「分からないを、正式回答に?」

「巴が作った」

「自分の言葉ではない」

「使える道具は使う」

「空白の旗らしい」

「褒めてる?」

「いいえ」

「なら安心した」

 迅は、五項目の札へ戻る。

「いまの白布の仕事は、この審理の証人路と原本路の警備」

「担当者」

「凱。迅。交代警備員六人」

「できること」

「身体検査の同意確認、経路封鎖、非殺傷制圧、退路確保。証人を出廷させる権限なし。証拠内容を見る権限なし」

「終了条件」

「六月二十九日、証拠返却終了。延長は新しい署名」

「拒否窓口」

「城外警備監査台。担当者は空白の旗じゃない三人」

「その三人を選んだのは」

「証人側、審理官、城外住民から一人ずつ」

「不完全ですね」

「不完全」

「中央決裁なら、一人で責任を取れる」

「取ったことにできる」

「あなた方は、誰も全体を取らない」

「全体って言った人が、他人の分まで持っていくから」

「では、誰も王にならない?」

「今日は、その質問に答えない」

 迅は、白布を手に取った。

 掲げない。

 四つに折る。

 染みが内側へ入るように。

「逃げるのですか」

「審理中の警備札に戻す」

 折った布を、警備担当者名簿の横へ置く。

 旗ではない。

 誰かの頭上にもない。

 仕事の終了時刻が書かれた一枚の布として、机上に収まった。