第380話 第十章「ユノの不利益証言」後編
「第三」とセレナ。「捜索資源」
ユノが置き手紙を残した後、王家は追跡班を出した。
捜索費用の帳簿は、七都市で同じ色をしていなかった。
王家直属の回収班。
法廷の所在確認班。
医療窓口の危険確認。
ゼロスター号の自主探索。
保護宮殿の外部遮断。
「全部、被告へ請求するのか」とカイル。
「王家は主張していない」と代訴官。
「では何のために出す」
「行動結果の理解」
セレナが帳簿を二つへ分ける。
『ユノの説明不足が増やした負担』
『制度が本人意思を確認できず、自動発生させた負担』
「回収班の三分の二は、置き手紙に『連れ去られていない』とあるのに出動」とセレナ。「本人意思を証拠として扱わない制度上の自動費用です」
「手紙だけで安全確認を止められない」と代訴官。
「その通り。最低限の確認は必要」
「どこまでが最低限」
「現時点の規定には上限なし」
「なら、被告の行動がなければ生じなかった」
「制度の欠陥も、被告の行動がなければ表面化しなかった。だからといって、欠陥を被告の責任へ全部置かない」
医療窓口の費用は、ユノが自分から受診した分。
それを捜索費へ入れると、支援を受けたことが逃走の罪を重くする。
「外す」とセレナ。
「保護宮殿の遮断費」とロロ。
「宮殿が自動で閉じた。本人は命令していない」
「外す」
「配達員の危険手当」
「本人の説明不足。残す」
「清掃員の帰宅不能」
「残す」
「法廷列車の分断修理」
ロロの四本腕が止まる。
「半分は制度。半分は本人が衝突を意図して宮殿へ入った」
「割合を今決めるな」とセレナ。「技術鑑定後」
「請求書は仮で全額」
「それはあなたの慣習」
「値切られる前提!」
ユノは、自分に不利な項目が減るたび安心し、自分の責任項目が残るたび痛む。
その両方を感じる自分を、立派にも卑怯にも分類しなかった。
「私へ帰属する負担は、別審理で争う」と彼。「ただ、制度側へ移った分を、自由を得るための功績にしないでください」
「なぜ」と進行法官。
「壊したから見えた制度を、壊した者の所有物にしたくない」
ゼロスター号は、役名での一斉照会を避けた。
それでも七都市の医療窓口、門管理、保護官が動いた。
「あなたは、それを予測していたか」と代訴官。
「一部は」
「どの程度」
「王家が告発を出すこと。法廷が動くこと。友人が危険痕だけを探すことは、予測できなかった」
「友人の行動を利用した?」
「結果として」
「計画上は」
「法廷が来る必要はあった」
「なら、利用した」
ユノはハルを見る。
「そう言われると思う」
「俺に言えよ」とハル。
進行法官が制する。
「傍聴人は」
「質問」とハル。
「弁護人ではありません」
「友達として」
「権限が少ない」とリゼ。
「少ないから、一個だけ」
進行法官は迷い、本人へ確認する。
「被告人、私的質問を受けますか」
「受ける」
「凪野ハル。一問」
ハルは立つ。
「何で、俺たちに言わなかった」
短い。
法的には雑。
感情として正確。
ユノは、答えを三案準備していた。
一つ目。
君たちを危険へ巻き込みたくなかった。
二つ目。
僕の自立を、皆の救出劇にしたくなかった。
三つ目。
計画の秘密を守る必要があった。
どれも本当である。
どれも、自分を少し良く見せる。
ユノは三つを捨てた。
「止められるのが嫌だった」
「俺が?」
「君が止めないことも知っていた」
「じゃ」
「手伝われると、頼りたくなる。頼ったら、君たちの選択も背負う必要がある。それが怖かった」
「だから勝手に、俺たちの選択をなくした」
「うん」
「探す心配はさせた」
「うん」
「腹立つ」
「うん」
「謝るなら、綺麗に言うな」
ユノの喉が動く。
「ごめん」
それだけ。
法廷記録には、謝罪と書かれる。
ハルの中には、許したとも許していないとも書かれない。
「一問終わり」と進行法官。
「答えは」とユノ。
「何の」
「許すか」
「今決めない」
ユノが頷く。
許しを、返事の期限へしない。
リゼは証言を希望した。
「被告へ有利ですか」と進行法官。
「知らない」
「不利になる可能性」
「ある」
「被告人」
「受ける」とユノ。
リゼは証言席へ座らない。
空席の横へ立つ。
「兄さんは、私の記憶喪失を、王家の保護が本人を消す例として何度も使った」
「事実です」とユノ。
「私に聞く前にも」
「事実です」
「今は謝った」
「はい」
「でも、謝ったから今後使わない保証はない」
「ない」
「私は兄さんを愛している」
傍聴席が静まる。
「だから、兄さんの自由の証拠にならない。私が傷ついたことを出せば、兄さんは正しい人に見える。私の傷を、兄さんの免許へしないで」
「分かった」
「分かった顔だけしないで」
小さな笑い。
リゼは笑わない。
「それと、兄さんは判断を誤る。相手の気持ちを当てたと思う。美しい順番へ並べる。家族会議を一人で演出する」
「はい」
「でも、判断を誤る人を、判断できない人へ変えないで」
王家代訴官が立つ。
「あなたは十四歳。医学的判断は」
「していない。兄さんが立派だとも言っていない。今の本人に聞けと言っている」
「本人が自分の能力を過大評価している可能性」
「誰にでもある」
「王家第一継承者は、誤りの損失が大きい」
「だから役を制限する審理をすればいい。身体を所有する理由にしない」
リゼは面紗の端を折る。
リゼは、兄へ向いたまま、もう一つ言った。
「十歳の時、私が母さんの声を覚えていないと泣いた夜、兄さんは『忘れたことも証拠だ』と言った」
ユノの喉が動く。
「覚えている」
「私は慰められた。欠けた私にも意味があると思った」
「うん」
「翌週、兄さんは評議会で同じ言葉を使った。王家の記憶徴収を批判する演説に」
「君の許可を取らずに」
「そう」
「ごめん」
「謝罪を増やせば、今日の証言が感動的になる」
ユノは黙る。
「だから今、私が何を覚えているかは話さない。兄さんの悪さを詳しく説明して、兄さんが正直な被告に見える材料も渡さない」
「分かった」
「返事はいい。次に、家族の話を公へ出す時、先に聞いて」
「断られたら」
「出さない」
「国を変える証拠でも」
「私の傷が必要なら、私へ必要だと説明して、断られる可能性を引き受けて」
ユノは、即答できない。
国を変える利益。
妹の非公開。
どちらが重いかを、今一つへ決めれば、また妹を自分の答えへ使う。
「約束できるのは」と彼は言う。「先に聞くこと。断られた時、勝手に理由を作らないこと。緊急時の例外を今ここで作らないこと」
「今はそれでいい」
「許した?」
「兄さん、さっき学ばなかった?」
「学習中」
「実績で」
リゼは証言席を降りる。
兄を愛することを隠さない。
兄のための証拠になることを拒む。
二つは、同じ方向を向く必要がなかった。
「覚えていない。だから何? 今の私に聞いて。兄さんにも、今聞いて」
王家側は、最後の札を出した。
医療記録。
慢性耳鳴り。
右手腱損傷。
幼少期の記憶対価。
母の声の一部欠損。
幻像使用による疲労。
舞踏会事件後の睡眠不足。
さらに、今回の計画。
協力者へ不十分な説明。
危険な単独移動。
自ら保護宮殿へ入り、法的衝突を起こした。
「被告は」と代訴官。「自分の行動結果を理解していたと主張する。しかし予測を外し、他者へ損害を与え、自分を二つの法的地位へ置き、法廷列車を分断しかけた」
ユノは反論しない。
「王家は、被告の人格を否定しない。現在の意思が存在することも認める」
言葉は丁寧である。
「ただし、その意思が、重大な不利益を比較し、継続して決定できる能力に基づくかは別問題だ」
進行鏡へ文字が出る。
『保護解除判断能力――争う』
「本人が嫌だと言ったから無効にするのではない」と代訴官。「本人が、嫌だという感情を国家責任、暗殺危険、継承混乱、条約崩壊と比較できるかを問う」
「比較した」とユノ。
「結果が危険なら」
「危険な答えを選ぶ能力もある」
「未成年時の記憶欠損と、現在の疲労下で?」
「だから、具体的な能力を調べて」
「王家の結論は、現時点で被告は判断能力を欠く」
法廷がざわめく。
誘拐の方法ではない。
署名の真正でもない。
最後に争われたのは、本人へ聞いた答えを、答えとして数える資格が本人にあるかだった。
ユノは、被告席の鏡へ映る自分を見る。
右眼は紫。
左眼は金。
二つの色が、一人の顔にある。
「欠くなら」と彼は言う。「何をもって、戻ったと判断する」
王家代訴官は答える。
「保護下での継続観察」
「いつまで」
「判断能力が確認されるまで」
「確認するのは」
「保護主体が任命した専門家」
円である。
保護を拒んだことを能力不足の証拠にし、能力があると保護者が認めるまで保護を続ける。
出口の条件を、出口を閉じる者が持つ。
ユノは笑わなかった。
「では、その円を法廷で切ってください」
自分に有利な証言だけではなく。
自分の誤りも、傷も、欠けも、全て同じ机へ置いて。