第78話 第一章「八旗からの封筒」後編

《封筒を受け取った。仕事を受けた、とは別》

「第七項の安全協力義務は始まっています」

《安全協力と、契約紛争の解決受任も別》

「そこまで分けると、相手が詭弁だと言います」

《相手へ説明できる?》

 真琴は第七項を読み直した。

 係争解決まで市場街の安全維持に協力する。

 協力。

 範囲がない。

 時間がない。

 誰の指揮を受けるかもない。

「安全上の緊急事態へ、既存の活動規約の範囲で協力する、と限定して異議を出します」

《既存の活動規約》

「領土なし。永久代表なし。強制徴収なし。仕事ごとの責任者、期限、撤回窓口」

《市場の人が、それを知っている?》

「説明します」

《誰が》

「私が」

 また一人で取った。

 真琴は言い直す。

「説明方法を、あなたと市場の依頼者へ確認します」

 巴が頷く。

 迅が十四枚の紙を見た。

「仕事を受けないなら、今から何をする」

 巴は地図の中央階段を指した。

《安全確認》

「それは受ける?」

《市場住民から、通訳と安全確認の同行依頼を受けた》

「空白の旗じゃない」

《そう》

「一人で行くのか」

《必要なら、別に依頼する》

「俺たちへ?」

《断れる》

 迅は少し不機嫌になる。

 頼られたいのに、所属させたくない。

 矛盾は人間の中で、条文より普通に同居する。

 凱が招待状を取った。

「俺は、市場の紛争整理へ参加したい。八旗の席を得るためだけではない」

「理由」

 タマキ。

「生活を一つの署名へ束ねれば、王の命令と同じになる。俺は、それがどう壊れるかを見る責任がある」

「自分のため?」

「それもある」

 タマキは記録する。

《凱。参加希望。市場と、自分の過去》

 七瀬。

「私は、記録方法を当事者と決められるなら参加します。八旗提出用に撮ることを先に目的へしません」

 轟。

「安全確認。左肩で持たない条件」

 迅。

「閉じ込められてる人がいるなら行く。契約を作るのは、まだ受けない」

 真琴。

「私は受けます」

 全員が見る。

「条件整理と異議提出。八旗へ参加する道を、読む前に捨てたくないという個人的な理由も記録してください」

 七瀬が書く。

 タマキは自分の番で考えた。

「配達」

「何を」

「紙。鍵。薬。人は運ばない」

「案内は?」

「受取人と行き先が分かれば」

 巴は六つの返答を、同じ言葉へ直さず並べた。

 仕事を受ける者。

 条件つきで受ける者。

 安全だけ受ける者。

 記録方法が決まるまで保留する者。

 空白の旗は、一枚の意思を持たない。

 それで八旗の席へ入れるかは分からない。

 分からないまま、真琴は異議書を書く。

《受領は、契約紛争解決の包括受任を意味しない》

《安全協力は、人命保護と既存の作業規約に限定する》

《保証停止損害の連帯責任は、介入前の説明と個別承認がない限り争う》

 配達人は首を振った。

「所定の回答欄を使え」

「欄が足りません」

「追記欄がある」

「二行です」

「要約しろ」

 巴が黒板へ書く。

《要約すると、誰の意味になる?》

 配達人は彼女を見た。

「俺は運ぶだけだ」

 タマキが初めて配達人へ少し同情した顔をする。

「受取人、八旗協議連絡室。送り主、朽葉真琴ほか。目的、受領範囲の異議。封を開けないで運ぶ?」

「運ぶ」

「返事は誰へ」

「この配達所」

「責任者いない」

「今回の受領担当へ」

「真琴」

「そうだ」

 ようやく宛先に人の名が入った。

 タマキは異議書を封筒へ入れ、八つの封蝋ではなく一本の麻紐で結ぶ。

「豪華じゃないな」

 配達人。

「中身は同じ」

「同じではない」

「じゃあ、何が違う」

 配達人は麻紐を見た。

「開けやすい」

「いいこと」

「役所では、そうとも限らん」

 彼は異議書を受け取り、今度こそ出ていった。

 扉が閉じる。

 巴は黒板の中央へ、大きく二文字を書いた。

《承知》

 その下へ、長い空欄を引く。

 句点は打たなかった。