第156話 第四章「西市場の偽票」後編

 十二月二十八日 午前六時三十六分

 市場の夜明けは、魚より先に氷が届く。

 中尾、タマキ、七瀬、地区証者二人は、回収路へ出た。

 全経路を一人で回らない。

 中尾が受渡場所を示す。

 タマキが移動路を確認する。

 七瀬は入口と出口だけを撮る。

 地区証者は、回収した番号と時刻を書く。

 真琴は会議所へ残った。

 自分が同行すれば、免責を決める者と証言を集める者が同じになる。

 残ることは、楽ではない。

 現場へ行った方が、働いているように見える。

 彼は、仮票発行手順の最後へ一行加えた。

《番号の重複を理由に、本人へ同じ説明を二度求めない。再確認は本人が希望した場合のみ。》

 干物屋の老人が、朝の茶を持ってくる。

「俺の茶も記録するか」

「今日はしません」

「昨日はした」

「茶が出ることを知らない人との差を確認するためです」

「今日は、みんな知ってる?」

「掲示しました」

「なら二杯飲んでも同じだな」

「費用が違います」

「法律は細かい」

「勘定もでしょう」

「勘定は金になる」

「手順は、間違えた時の損を減らします」

「先に儲からない商売か」

「はい」

 午前七時二十八分。

 最初の回収箱が戻る。

 丸い穴の袋に重複票。

 三角の袋に本人確認済みの仮票。

 四角の袋に受渡札。

 長い布の袋に、持ち主がまだ分からない紙。

 中尾は頬へ擦り傷を作っていた。

「殴られた?」

「戸を閉められた。顔は見せてない」

「治療を」

「先に札」

 タマキが結び目を確認する。

「送り主」

「各回収者」

「受取人」

「魚棚市場確認窓口」

「目的」

「偽票を、偽票のまま戻す」

 タマキはうなずいた。

「合ってる」

 真琴は袋を受け取った。

 二十七枚という数字は、まだ確定しない。

 本人確認も、運搬者の範囲も、未確認の二人も残っている。

 それでいい。

 早く確定した数字は、遅れて来た人を嘘にする。

 市場の梁へ、四つの袋が吊られた。

 どれも同じ高さではない。

 中身の重さが違う。

 空に近い長布の袋だけが、朝の風で大きく揺れた。