第209話 第七章「久我の檻」前編
二月二十五日 午前零時十二分
地下の会議室は、四人座ると満員だった。
もとは点検槽である。
壁は湿っている。
天井は低い。
中央を再利用水の管が横切り、立ち上がれば額をぶつける。
水巻ハツは、そこへ七人を呼んだ。
「四人まででは」
鷹取由良が言う。
「四人が座ると満員。七人が立てないとは言ってない」
「立てる?」
「若いのは曲がれ」
由良は腰を折った。
迅は、もっと深く折る必要がある。
轟は入れない。
肩幅だけで入口を塞ぐため、外で構造を見ている。
地下へ入った外側の人間は、由良、真琴、タマキの三人。
七瀬は蓋の外。顔を撮らず、話した本人が確認できる音だけを記録する。
内側からは、水巻ハツ。
磯良ノノ。
塔の診療所で働く阿久津サナ。
五階の配給係、沼代ケン。
四人とも、久我の許可を取っていない。
四人とも、久我を敵だとは言っていない。
ハツは、油染みのある布袋を床へ置いた。
「来なかった人の分」
中には、紙片が十九枚。
封筒ではない。
薬包紙。
菓子袋の裏。
配給札の余白。
子どもの計算用紙。
名前がある物は七枚。
部屋番号だけが五枚。
何も書かれていない物が七枚。
「匿名は記録できません」
真琴が言った。
「できないなら読まなくていい」
ハツ。
「発言者の重複を確認できない。同じ人が十枚書いた可能性もある」
「あるね」
「久我側が混ぜた可能性も」
「ある」
「外側が地下へ先に入れた可能性も」
「ある」
「では、証拠価値が」
「証拠じゃない。来られなかった人の言葉」
真琴は眼鏡を外した。
紙の文字はぼやける。
「読み上げる場合、塔全体の意思として数えない。内容だけ、この場の問いへ加える。後から本人が否定した場合は外す」
「それでいい」
最初の紙。
《久我さんを出さないで。前の夜、夫を階段から運んでくれた。私は会議へ行けない。夫を一人にできない。》
署名なし。
二枚目。
《診療所の鍵を返せ。痛い時に、誰へ痛さを説明するかまで久我に決められたくない。》
八階西、とだけ。
三枚目。
《外へ出たい。天環には行きたくない。剛嶺にも戻りたくない。ほかの場所を今は聞かないで。》
名前なし。
由良が紙を持つ手を止めた。
「行先を聞かないで、って」
「聞かない」
タマキ。
「でも出る時、届け先がいる」
「今は《塔の外》まででいい」
「外のどこ」
「それを決めない時間を作る」
「荷物は、宛先がないと運べない」
「人は荷物じゃない」
「分かってる。だから困る」
四枚目。
《鍵を分けたら、誰かが脅される。久我さんなら脅されても言わない。私は言う。だから持ちたくない。》
五枚目。
《持ちたくない人へ持たせるな。持ちたい人だけへ全部持たせるな。》
同じ筆跡に見えた。
七瀬が蓋の外から言う。
「四枚目と五枚目、筆圧と字間が一致。ただし、同一筆記者の確定には原紙比較が必要」
「顔を撮らなくても、字で分かる?」
ノノ。
「分かる場合がある。だから筆跡の公開もしない」
六枚目。
《子どもを先に外へ出すと言われた。私は一緒に行く。子どもだけを救ったことにしないで。》
七枚目。
《私は久我の警備班。住民ではないと思われている。十二日前からここで寝ている。水を運び、窓を直した。出ていけと言われたら行く。でも、話す前から占拠者の人数へ入れないで。》
久我の部下からだった。
由良は紙を床へ置いた。
「十四人を、住民と別に数えた」
「登録が別だった」
七瀬。
「生活も別だと思った」
「記録上は、塔内居住の開始日と住民登録を分ける」
真琴。
「住み始めて十二日なら、家じゃない?」
タマキ。
「十二日で家になる人もいる」
ノノ。
「三年いても仮住まいの人も」
由良は残りの紙を読んだ。
追放。
残留。
鍵の分散。
配給だけ継続。
夜間の見張り。
顔を出したくない。
声も記録されたくない。
記録はしたいが、自分の部屋番号は隠したい。
参加しない人にも、意見がある。
参加しないこと自体が意見とは限らない。
「この十九枚、数へ入れない」
由良が言った。
「では何へ」
真琴。
「集会で聞く問いへ入れる」
「例を」
「《久我を残すか》だけじゃなく、《何の仕事を残すか》。その答えを名前と結びつけるかは本人が選ぶ。《外へ出るか》だけじゃなく、《行先を今決めるか》も分ける」
真琴は新しい紙を出した。
「問いが増える」
「答えを減らさないため」
ハツが菓子袋の裏へ、油のついた指で丸を描いた。
「会議ってのは、人を集めるだけじゃ足りない。来られない人の椅子を、空けておくんだよ」
「百人目の空席みたい」
タマキ。
「何それ」
「前に使った」
「同じ話にするな」
由良が言った。
「今回は、空席の人へ答えを押し込まないための穴」
「穴、増やす?」
「塞ぐよりいい」
「最初に決める」
真琴が言った。
「この場の発言は、塔全体の意思を代表しない」
「分かってる」
ハツ。
「発言者が後に撤回した場合、記録は」
「消す」
七瀬の声が蓋の外から届く。
「ただし、消した事実と時刻は残す。内容は残さない」
ノノが笑った。
「消したことまで記録するんだ」
「記録を消す力があったことを残す」
「面倒な女」
「よく言われる」
「褒めた」
「それもよく言われる」
由良はノノを見た。
三年ぶりだった。
髪を短く切っている。
右手の人差し指と中指がない。
剛嶺の索道工房で、巻き取り機へ手を挟んだ時の傷だ。
あの事故のあと、由良は見舞いへ行かなかった。
任務中だった。
戻った時には、ノノは工房を辞めていた。
理由を聞かなかった。
聞けば、自分が遅れたことまで説明しなければならない気がした。
「久しぶり」
由良が言う。
「遅い」
「何に」
「見舞い」
「三年遅れは、見舞いって呼ばない」
「分かってるならいい」
ノノは左手で、膝の上の布を縫っていた。
白、青、赤。
三色の端切れを、一本の灰色糸でつなぐ。
「残るんだって?」
由良は聞いた。
「誰から聞いた」
「窓」
「窓はそんなに喋らない」
「縫い方」
「それなら、残るとは言ってない」
「じゃあ聞く。塔を出たい?」
「今は出たくない」
「久我がいるから?」
「久我がいても」
ノノは針を布へ通した。
「ここ、私の部屋がある。縫い台がある。右手の道具を左で使えるよう、三年かけて机を削った。出るってのは、体一つを外へ運ぶことじゃない」
由良は返せなかった。
救出側の地図では、人間は点だった。
点を安全圏へ動かせば成功になる。
ノノの机は、地図にない。
「久我は残したい?」
「警備は必要」
「久我が必要?」
「同じじゃない」
阿久津サナが割って入る。
三十四歳。
髪を布帽子へ押し込み、診療所の白衣の上に灰色の防寒着を着ている。
胸ポケットには、赤、黄、緑の許可札が三枚。
「私は久我に出てほしい」
サナは言った。
「理由は」
真琴。
「診療所の鍵を持ってるから」
「医療者であるあなたではなく?」
「私が持っていた。最初の襲撃の夜、薬品庫を荒らされないよう預けた。その後、返ってこない」
「必要な時は開く?」
「久我の許可札があれば」
「拒否された例は」
「二件。どちらも、本人確認が不十分という理由」
「結果は」
「一人は翌朝まで鎮痛薬なし。一人は別の薬で代替」
「重篤化は」
「しなかった」
「では、判断は合理的だった可能性も」
真琴が言う。
サナの目が鋭くなる。
「患者を見てない人の合理性だ」
真琴は眼鏡を外した。
強い近視で、相手の顔がぼやける。
「失礼した。書類の形だけを見た」
「眼鏡を外すと謝れるの?」
「相手の表情を推測で補わなくなる」
「変な癖」
「自覚している」
五階の配給係、沼代ケンは五十代だった。
丸い肩。
指先に小麦粉。
話す前に、人数分の乾いた菓子を配った。
外から持ち込んだものではない。
塔内の小麦と、残り少ない油で焼いたものだ。
「俺は久我を追い出すのに反対だ」
ケンは言った。
「配給が続いているから?」
タマキ。
「続けたのは俺たちだ」
「久我じゃない?」
「久我は順番を決めた。鍵を持った。揉めた時に棒を持って立った。粉を量ったのは俺だ。焼いたのは四階の婆さんたちだ」
「じゃあ久我はいらない」
「順番を決める奴がいない時、粉袋一つで殴り合いになった」
「いつ」
「十二日前」
塔へ久我たちが入った夜。
境界開門後、給水塔には外から人が増えた。
住む場所を失った者。
水だけを求める者。
水を売るために来た者。
天環の制服を着た偽物。
剛嶺の補給札を持つ盗品商。
三十人近くが正面へ押し寄せた。
当時の住民委員は、門を開けて水を分けるか、閉じるかで揉めた。
話し合いの間に、窓が割れた。
薬品庫の鍵が奪われた。
貯水槽へ油を入れると脅す者がいた。
久我檻と十四人の仲間は、塔の南から来た。
塔を奪うためではなく、外の略奪者に追われていた。
門を閉めてほしいと頼み、拒まれ、三分後に自分たちで襲撃者を押し返した。
久我は出口を一つずつ封鎖した。
正面門。
地下搬入口。
外周階段。
屋上梯子。
誰かが逃げ道として認識した場所ほど、《退路狩り》は強く働いた。
襲撃者は入れなかった。
住民も、出られなくなった。
「最初の七十二時間だけだった」
ハツが言う。
「久我へ警備を頼んだのは、こっちだ」
「期限は」
真琴。
「紙に書いた。三日」
「延長は」
「襲撃がまた来たから、一日。次に水道札が偽造されて、二日。その次は外の兵が突入すると言って、三日」
「延長を誰が決めた」
「そのたびに集まれる者で」
「全住民?」
「病人と乳児の家は来てない。夜勤も。何人かは怖くて部屋から出なかった」
「反対者は」
「久我が反対者を殴ったことはない」
ケン。
「でも、反対すると配給の順番が後になった」
サナ。
「一度だけだ」
「一度で十分」
「襲撃に近い窓の住民を先に移したからだ」
「理由を説明しなかった」
「説明してる時間がなかった」
「後からも説明しなかった」
声が重なる。
久我を支持する者。
追い出したい者。
警備だけ残したい者。
鍵だけ返してほしい者。
どの意見にも、生活の根がある。
由良は乾いた菓子を割った。
半分を口へ入れる。
硬い。
甘くない。
噛む音が会議室で大きく響く。
「天環側は、塔の住民を一時宿舎へ移せる」
真琴が言った。
由良が彼を見る。
真琴は続ける前に止まった。
「提案してよいか」
「誰に」
タマキ。
「ここにいる四人へ」
「この四人が全員を決めない」
「承知している。選択肢として情報だけを」
「場所は」
「天環南区の旧学校宿舎」
「期限」
「現在の確保は二週間。その後は再審査」
「仕事は」
「未定」
「家財は」
「大型物は残置」
「戻れる保証」
「塔の安全確認後。ただし、所有権争いが起きれば」
「それ、避難じゃなくて引っ越しの途中だよ」
ノノが言った。
真琴は紙を伏せた。
「正確には、その危険を含む」
「剛嶺側にも宿舎がある」
由良は言いかけた。
ノノが見た。
「どこ」
「西脚の資材庫を改装した所」
「階段は」
「鉄梯子が二つ」
「私の右手で上がれる?」
由良は黙った。
「冬、暖房は」
「炉が一基」
「縫い台は置ける?」
「……分からない」
「由良」
「うん」
「私を故郷へ返す顔で、知らない部屋へ送るな」
由良は赤索の端を握った。
帰巣線は、帰る場所が定まっているほど強い。
人間の帰る場所を、外から定める力ではない。
「剛嶺へ来い、とは言わない」
「天環へ行け、とも?」
「言わない」
「じゃあ、何しに来た」
由良は答えを探した。
斥候なら、道を示す。
交渉者なら、条件を並べる。
どちらも、行先が決まっている時の仕事だった。
「道を決める前に、立ち止まる場所を作りに来た」
ノノは針を止めた。
「遅い」
「知ってる」
「でも、見舞いよりは早い」
地下の入口で、金属が鳴った。
全員の顔が上がる。
狭い通路の向こうに、久我檻が立っていた。
黒い短衣。
四角い縫い目。
暗い栗色の髪は顎の線で揃っている。
青灰色の瞳。
四角い金属枠の眼鏡。
右手に棒はない。
左手に鍵束。
実鍵だけではない。
赤、黄、緑、白、青。
配給札。
診療許可札。
入浴時間札。
外周廊下の通行札。
金属と薄板が、歩くたびに小さく鳴る。
「会議は、私を除いて始めた」
久我が言う。
「許可を取ってない」
ハツ。
「知っている」
「止める?」
「止めれば、外が私を議題にして続ける」
「では入る?」
「そこは狭い」
「好きなんじゃないの」
ノノ。
久我は眉を動かした。
「狭い場所と、他人の膝へ座る場所は違う」
由良は壁へ寄った。
真琴も膝を抱える。
タマキは管の下へ潜る。
空いた場所は、二十センチ。
「十分」
久我は横向きに入り、壁へ背をつけた。
開いた蓋から遠い位置を選ぶ。
外の夜空が細く見える。
風が入るたび、久我の視線が一度だけ出口へ動く。
由良は、その動きを見た。
見ただけにした。
怖い場所を見つけたからといって、それを道にするのは斥候の仕事ではない。
少なくとも、いまは。
「久我」
サナが言った。
「診療所の鍵を返して」
「患者記録の持出し確認が終わっていない」
「持ち出してない」
「医療助手の一人が、外部の薬商と接触した」
「それは私じゃない」
「鍵を分ければ、誰が開けたか追えない」
「あなたが持っている今は、必要な時に開かない」
「二件とも、代替処置で重篤化していない」
「結果が悪くなければ、判断を奪っていい?」
久我は答えない。
ケンが言う。
「配給の鍵は、まだ久我に持っててほしい」
「理由」
真琴。
「俺が粉を盗んだと言われたくない」
「実際に盗んだ?」
「盗んでない。だから鍵を一人で持ちたくない」
「久我一人ならいい?」
「久我は盗んだと疑われても、気にしない」
「気にする」
久我。
「顔に出ない」
「顔を根拠にするな」
ノノが吹き出す。
久我は彼女を見る。
「何がおかしい」
「檻が記録屋と同じこと言った」
「不名誉か」
蓋の外で七瀬が言う。
「確認が必要」
「聞こえているなら、記録に集中しろ」
「会話へ参加する許可は取っている」
「誰から」
タマキが反射的に聞く。
全員がタマキを見る。
「……三つ目まで聞かない」
「学習した」
ハツ。
「遅いけどね」
久我は鍵束を膝へ置いた。
「外部が塔へ入れば、鍵を分ける前に奪われる」
「外部を入れずに分ければいい」
由良。
「誰へ」
「住民へ」
「住民の誰が安全か、外から分かるのか」
「分からない」
「内側でも分からない。襲撃者と連絡していた者がいる」
「だから全員から鍵を取り上げる?」
「鍵を一つにすれば、奪われる場所も一つになる」
「奪われたら全部なくなる」
「守れば全部残る」
「守る人が、返さなかったら」
「私は返す」
「いつ」
「外部脅威がなくなった時」
「誰が判断する」
「私だ」
由良は久我の鍵束を見た。
彼女は嘘をついていない。
自分が判断することを、当然だと思っている。
他人を信用していないのではない。
信用できない状態を減らすため、自分へ集中させている。
そして、自分が失敗する可能性だけを、計算から外している。
「久我」
轟の声が蓋の外から響いた。
大きな体は入れない。
しかし声は、管を伝って地下へ届く。
「何だ」
「建物は、おまえ一人の荷重を受けるように作られてない」
「比喩か」
「半分」
「残りは」
「鍵を一か所へ集めると、人も一か所へ集まる。配給、診療、入浴、避難。廊下の荷重が偏る」
「時間を分けている」
「おまえの時刻表が崩れた時、全部が崩れる」
「崩さない」
「建物は、そう言う人間から先に疑う」
「建物は喋らない」
「音で喋る」
「おまえが意味を足している」
「だから住民に聞く」
二人の声は似ていた。
低い。
短い。
守る対象を数える。
違うのは、轟の禁止事項には自分も含まれていた。
久我の規則では、久我だけが例外だった。
「要求がある」
由良は言った。
「外部突入の停止か」
「それはもう止めてる。今度は内側」
「何を」
「階ごとの集会」
久我の指が鍵束へ触れる。
「一か所へ集めれば危険だ」
「集めない。各階でやる」
「誰が進行する」
「その階が決める」
「結果は誰が集める」
「一つに集めない。階ごとに残す」
「意思が食い違う」
「食い違わせる」
「塔は一つだ」
「部屋は九十六」
「給水は共通だ」
「鍵は別にできる」
久我は由良を見た。
「おまえは、この塔をどちらへ渡す」
「どちらにも」
「天環か、剛嶺か」
「住民へ」
「住民は二つの都市から疑われている」
「疑う側の都合で、持ち主を変えない」
「外から守れるのか」
「守る役を残したい人がいる」
「私を追い出したい人もいる」
「両方、同じ階にいる」
久我はハツ、サナ、ケン、ノノを順に見た。
「集会で、私を追放すると決まったら」
「従う?」
「外が入らないなら」
「条件をつけるのは、まだ決める側の言い方だ」
由良は赤索を膝へ置いた。
「時間をくれ。二十四時間」
「長い」
「十二階。病人。夜勤。乳児。窓から顔を出したくない人もいる」
「外の部隊が待たない」
「私が止める」
「止められなければ」
「外側へ戻って、止める」
「その間に私が集会を止めると思わない?」
「思う」
「ならなぜ出る」
「中の人が、止められたと話せる道を作ったから」
ハツが蓋を指した。
「この穴、久我が塞いだら、次は床を叩く」
「配管を壊すな」
「壊れる叩き方を、あんたより知ってる」
「自慢にならない」
「専門ってのは、壊せる場所を知ってて壊さないことだ」
轟が外で低く笑った。
「その婆さん、雇えるか」
「高いよ」
「見積もりから頼む」
久我は鍵束を持ち上げた。
「十八時間」
「二十四」
「二十」
「二十二」
「二十。午前八時まで」
「病人と夜勤者は後から変更できる?」
「変更は三時間」
「六時間」
「四」
「五」
「四」
「けち」
「時間は配給より不足している」
「じゃあ四。集会を止めない。発言で配給順を変えない。医療札も」
「認める」
「記録する」
七瀬。
「久我檻は、各階の集会を二月二十五日午前八時まで妨げない。発言内容を理由に配給・医療・通行順を変更しない。結果は階ごとに保持し、変更受付を正午まで認める」
「外部は突入しない」
久我。
「由良が交渉する」
「できなければ」
「私が責任を取る」
「どうやって」
「まず、信用を失う」
久我の目が細くなる。
「軽いな」
「重いよ。斥候は道を信用されなくなったら、足があっても動けない」
「もう一つ」