第218話 第十一章「建物を残す勝利」後編
「住民の同意は」
「市内設備だ」
由良が聞く。
「市境は、塔のどこを通ってる」
「行政図では中央」
「住戸を半分に切る?」
「比喩だ」
「地図が先に比喩を使った」
監督官は旗を持ったまま、正面へ進む。
轟が白線の跡へ立った。
《一人門》はもう消えている。
能力では止めない。
「旗は上げない」
「おまえに決定権はない」
「あるのは中」
塔の窓から、住民が見ている。
ハツが言った。
「今までの旗も下ろす」
屋上には、久我たちが掲げた黒い格子旗があった。
久我が見上げる。
「警備の識別に必要だ」
「腕章にしな」
ノノ。
「旗は塔全体に見える」
「だから問題」
「外から警備状態が分からない」
「期限と連絡先を書いた板を入口へ出す。旗じゃなく」
久我はしばらく考えた。
「屋上鍵」
ノノが複製鍵を上げる。
「一緒に下ろす?」
「私が下ろす」
「一人で?」
「警備の終了ではない。旗の終了だ」
「私も行く。屋上は七階より広い。あんた、広い場所で急ぐ」
久我の目が細くなる。
「弱点として言うな」
「友達としても言ってない。共同鍵の相手として」
二人は屋上へ上がった。
由良は下から見た。
黒い格子旗が、ゆっくり降りる。
風に抵抗し、索が一度絡む。
久我は急がない。
ノノが索をほどく。
黒旗が屋上の縁へ消える。
天環市旗は、地上の監督官の手に残った。
代わりの旗は上がらない。
裸になった旗竿が、風で小さく鳴る。
カン。
塔はどちらの勝利も掲げなかった。
そのまま、水を送り続けていた。