第226話 第三章「小麦の条件」後編
凱が全運転手への確認を終えた。
十二人のうち、続行九。
条件付き二。
保留一。
保留した第五号車の柿沼リサは、寄贈団体との連絡がつくまで運転を続けるが、到着後の式典準備には参加しないと書いた。
郷原は、赤い太陽の旗を立てたままにした。
風が強くなり、竿が曲がる。
彼は停車を求めず、速度を三キロ落とした。
後続は追い越さない。
凱は「速度を戻せ」と言わなかった。
代わりに、間隔を一台ずつ聞いた。
「六号車、四号車との差」
「百九十メートル」
小麦。
「詰めるか」
「詰めない。粉袋を移したばかり」
「了解」
「王様が、私に車間を聞くの変」
「元だ。食料の人間が、道を止めた時間を数えるのと同じだ」
「同じじゃない」
「では、違うまま使う」
命令を一つにしないことで、車列は長くなった。
先頭と最後尾の間は、朝の二倍近い。
守りにくい。
誰かが止まった時、気づくのも遅い。
それでも、全員が同じ速度で走るために一人を無理に急がせるより、今はましだった。
小麦は、これを正しいとは書かなかった。
《十一時五十分 車列間隔拡大。理由、運転手ごとの条件確認。危険増加》
正しさは、危険を消す名前ではない。
何を増やしたかまで書いて、やっと選択になる。
昼十二時七分。
塩轍の広報柱が、もう一度点いた。
今度は数字ではなく、店名だった。
《鳥飼乾物》
《久瀬油店》
《路橋製粉》
《白沼商会》
九つ。
その横へ、在庫量と借金額が並ぶ。
小麦は息を止めた。
「これ、本人が公開を許した?」
『店名と在庫は聞き取りで了承。借金額は違う』
由良。
「塩戸へ言って」
『自分で』
小麦は回線を開いた。
「塩戸景。借金額を消して」
『市場が潰れる重さだ』
「重さを見せるために、人の首へ札を掛けない」
『寄贈団体の名前は大きく出してる』
「だから、それも畳んだ」
『店主が困っていると伝わらない』
「困ってることと、いくら借りてるかは別」
『数字を隠せば、また美談になる』
「数字を出す相手を、あなたが決めるな」
『おまえも帳面に書く』
「本人に聞いて、用途を言って、返す窓口を作る」
『全部?』
「全部に近づける。できなかったら、できなかったって書く」
『遅い』
「速く盗んだ人に言われたくない」
塩戸は黙った。
広報柱の借金額が、一つずつ消える。
店名と在庫は残った。
謝罪はなかった。
小麦も礼を言わなかった。
正しい修正に、仲直りは要らない。
ただ、消した時刻を鍋帳へ書いた。
十二時十一分。
価格板の裏に、五つ目の条件を加える。
五、困窮の公開範囲は本人が決める。
板を荷台前面へ固定した。
走行の振動で、消された六十五の線が小刻みに揺れる。
値段は消えていた。
板そのものは、まだ車列の中にあった。