第235話 第八章「食料の所有者」前編
三月二十二日 午後一時七分
空腹の人数を聞くと、たいてい大きな数字が返ってくる。
鍋の数を聞くと、その数字は急に小さくなる。
土門小麦は第六号車の荷台へ無線機を並べた。
七台。
周波数が違う。
電池の残量も違う。
一台は送信釦が戻らない。
一台は音量つまみが外れ、木べらの先で回す。
小麦は、通信順を鍋帳へ書いた。
一、環水三号塔。
二、東高架下。
三、旧軌道宿舎。
四、剛嶺南端。
五、白沼沿道。
六、北塩七区。
七、連絡待ち四地区。
「環水三号塔。空腹の人数は聞かない。今日の夕方、何食を安全に作れる?」
『百八十』
沼代ケンの声。
「水」
『貯水、一千百リットル。飲用を引くと、調理へ二百四十』
「火口」
『七。うち二つは圧が不安定』
「調理者」
『十一。三人は警備兼務』
「警備を外せる?」
『外周だけ久我へ頼む。二人外せる。一人は本人が警備を続けたい』
「本人に確認」
『した。名前は公開しない』
「賃金」
『現金二、燃料券三、店の仕入れ相殺四、保留二』
「献立」
『豆と乾燥芋。油が必要。麦粉は明日』
「百八十じゃない」
『何が』
「豆を戻す水と、鍋の洗浄で二百四十リットルを越える」
『減らす?』
「豆を減らす。乾燥芋と油。百五十」
『空腹は百八十以上いる』
「食べる人の数じゃない。今作れる数」
『三十人は』
「別の火口を探す。冷たい物を足す。食料を送れば料理になると思わないで」
沼代が黙った。
『分かった。百五十』
「誰が決めた」
『沼代、梅野、チカ』
「チカも?」
『鍵を二回鳴らした』
「記録」
タマキが横で書く。
《環水三号塔/夕食百五十/乾燥芋・油/豆少量/水上限二百四十/三名確認》
「次」
小麦は東高架下へつないだ。
『二百五十食』
「火口」
『二』
「水」
『井戸、出る』
「一時間に何リットル」
『測ってない』
「今、桶十杯汲んで時間を測って」
『食べる人は二百五十』
「鍋は食べる人の数で増えない」
『援助が来るのに、どうして減らす』
「援助は火を増やさない」
相手の息が荒くなる。
『じゃあ、鍋ごと送れ』
「鍋はある」
『火口を』
「折り畳み竈が第五号車に十二。固形燃料。屋外設置。風除けを作れる人」
『三人』
「賃金」
『食事』
「食事は賃金と別」
『金がない』
「燃料券か、地元店の仕入れ相殺」
『店がない』
「行商から買う」
『塩轍?』
「ほかにいる?」
『いない』
「じゃあ、塩轍から買うか、買わないかを三人で決めて」
『襲った奴らだぞ』
「知ってる。襲撃責任と、在庫の売買を同じ鍋に入れない」
『鍋の人は敵にも払うのか』
「商品を受け取れば」
『払った金でまた襲う』
「その危険も書く。だから、無条件で買うとは言ってない」
小麦は額の汗を前掛けで拭いた。
三月の風は冷たい。
荷台の中は、無線機と人の息で熱い。
低血糖の始まりは、寒気と区別がつきにくい。
小麦は自分の指先を見た。
少し震えている。
食べていない。
朝から、味見を三口。
平焼きパンは由良へ渡した。
「小麦」
タマキが言った。
「何」
「手」
「書いて」
「震えてる」
「車」
「止まってる」
「エンジンの振動」
「切れてる」
「寒い」
「前掛けの中、汗」
「十四歳は人の汗を数えない」
「配達先が倒れたら困る」
タマキは鉄箱から小さな包みを出した。
黒糖と炒り豆。
「誰から」
「私」
「誰へ」
「小麦」
「何のため」
「倒れない」
「代金」
「あとで荷札を五枚、一緒に確認」
「高い」
「じゃあ三枚」
「食べる」
小麦は黒糖を口へ入れた。
甘さが舌へ張りつく。
食べ物は、判断を正しくしない。
間違える体力を戻すだけだ。
その体力で何を選ぶかは、別に残る。
午後一時二十五分。
七地区への聞き取りで、夕食の安全上限が出た。
環水三号塔、百五十。
東高架下、竈追加で百六十。
旧軌道宿舎、四十。
剛嶺南端、二百十。
白沼沿道、九十。
北塩七区、百三十。
連絡できた小集落二つ、合計七十。
総計、八百五十食。
申告された空腹人数は、千四百を越える。
食料が足りないのではない。
今日の水と火と手が足りない。
「袋を均等に割ると、腐る」
小麦は全回線で言った。
「調理できる量だけ、今日運ぶ。残りは保管場所と明日の手を決めてから」
『援助を出し惜しみするのか』
北塩七区から声。
「腐らせない」
『うちは人数が多い』
「竈が少ない」
『作れない人間には食べる権利がない?』
「ある。作れる場所へ運ぶか、調理済みを運ぶ。袋だけ置かない」
『誰が運ぶ』
「今決める」
小麦は地図へ、食材ではなく火口を書いた。
赤丸、稼働。
青丸、水あり。
黒線、運搬可能。
黄色、調理者不足。
由良が覗く。
「道の地図じゃない」
「台所の地図」
「高架下の外竈、風下が逆」
「どっち」
「午後は南東。柱の西側へ置くと、煙が宿舎へ入る」
「東へ移す」
「東は排水溝」
「どこ」
「北端。風除けは車体」
「援助車を壁にする?」
「運転手が残るなら」
「聞く」
由良は、車両ではなく運転手へつないだ。
「第五号車、柿沼リサ。東高架下で車体を風除けに使いたい。停車、推定四時間。断れる」
『荷は固形燃料。火の近くへ車を置くのは嫌』
「距離八メートル。防火布あり」
『運転席で待つ?』
「休憩場所を別に作る」
『車の鍵は』
「本人が持つ」
『なら、現地を見て決める』
「了解」
小麦が言う。
「命令した方が早い」
「昨日、由良に言われた」
「誰に」
「俺に」
凱が荷台の入口に立っていた。
左膝の装具へ、新しい布が巻かれている。
橋上で長く立ったため、膝が腫れた。
今は座るべきだ。
「座って」
小麦。
「話が」
「座って話せる」
「床は低い」
「箱」
「膝を深く曲げる」
「立ってて。短く」
凱は立ったまま、壁へ背を預けた。
「全車を率いることが、また目的になりかけている」
「誰が」
「俺が」
「自分で言うんだ」
「十二台が同じ方向へ動くと、安心する」
「料理が一斉に出ると、私も安心する」
「同じか」
「似てる。冷める料理もある」
「車は冷めない」
「運転手が疲れる」
「だから分ける?」
「まだ。先に、何をどこで作れるか」
凱は地図を見た。
「最も少ない所へ、自分が行く」
「何で」
「大きい隊へ俺がいれば、命令権に見える」
「小さい隊でも見える」
「なら、何をする」
「荷下ろし」
「膝が」
「名前を読む」
「それは得意」
「大きい声は禁止?」
「寄贈者だけ読まない。運転手、店、厨房、保留した人も読む」
「多いな」
「食事よりは短い」
午後一時四十三分。
地元商店の在庫聞き取りが始まった。
由良が連絡を取り、小麦が数量と状態を聞く。
七瀬は音声を記録するが、借金額と住所は本人の許可なく公開しない。
鳥飼乾物。
豆、五袋。うち販売希望三、店頭維持二。
麦粉、在庫なし。
乾燥葱、十二束。販売希望六。
久瀬油店。
油缶、十九。販売希望八。残りは固定客用。
路橋製粉。
麦粉、三・一トン。販売希望一・八。残りは種麦代金と交換予定。
白沼商会。
塩漬け魚、〇・六トン。冷蔵なし。販売希望全量。ただし二日以内。
九店。
申告在庫、七・四トン。
販売希望、四・八六トン。
店へ残す量、一・二二トン。
品質確認待ち、一・三二トン。
在庫の数字だけでは、献立にならない。
小麦は、受取地区の厨房へ一つずつ聞いた。
「火口はいくつ」
環水三号塔。
『三。うち一つは煙が逆流する』
「大鍋」
『二。片方は底が薄い』
「調理者」
『今日四人。明日二人』
「食物アレルギー」
『豆一、魚二。本人確認済み』
「水」
『飲用優先。調理へ一日二百六十リットルまで』
東高架下。
『火口五。燃料二日。大鍋一、小鍋六。調理できるのは三人、切るだけなら八人』
「切るだけの人へ賃金」
『必要?』
「仕事なら」
『皿洗いは』
「共同当番か有償か、現地で決める。混ぜない」
旧軌道宿舎。
『竈二。鍋四。乾燥芋は使える。豆は前日に水へ浸す必要。今日届いても夕食には間に合わない』
「じゃあ、豆を今日の食数へ入れない」
『明日なら』
「保管できる量を先に」
白沼沿道。
『魚は使う。塩抜きの水が足りない』
「何キロなら」
『今日百二十。明日百。残りは店か別地区』
「六百全部は無理」
『売り手は全部売りたい』
「買い手は、腐らせるために買わない」
小麦は、店の販売希望量の横へ、厨房使用上限を書いた。
同じ数字にならない。
売りたい人が嘘をついたわけではない。
食べる側がわがままでもない。
鍋の大きさ、水、火、手、身体。
食料の所有者が変わっても、物理は署名しない。
タマキが帳面を覗く。
「魚、余る?」
「今のままなら」
「買わないと店が困る」
「全部買って腐らせても困る」
「正しい量は」
「一つじゃない。今日使う量、明日使う量、塩抜きできる量、運べる量」
「数字が多い」
「魚は一匹ずつ違う」
「袋より面倒」
「袋は喋らないから、もっと面倒」
蓑原が言う。
「共同厨房の容量は、寄贈団体の成果報告にありません」
「入れて」
「何の成果です」
「届いた物を、誰かが無理せず食べ物にできるか」
「写真で示しにくい」
「鍋の数を撮る」
七瀬。
「空の鍋も」
「空は、失敗に見えます」
「次の食事まで休んでる鍋かもしれない」
小麦は頷いた。
「鍋にも休息」
「人にも」
七瀬。
「それは後で」
「今、書く」
「先に食料」
「小麦も食料を作る側」
「私を袋みたいに数えないで」
「だから休息時間を別に記録する」
小麦は返事をしなかった。
帳面の端へ、自分の睡眠時間を書く欄だけ作った。
まだ数字は入れない。
「全部買えば、援助を減らせる」
蓑原。
「全部は買わない」
小麦。
「なぜです」
「売りたい量と、共同厨房が使える量が違う」
「白沼商会の魚は二日で傷む」
「だから優先する。でも、魚を食べられない人へ送らない」
「乳幼児食には」
「使わない。塩分が高い」
「援助資金の目的外です」
「目的を変えて」
「五団体の承認が」
「待てない。魚は二日」
「あなたは、由良さんへ遅いと言いながら、寄贈側へは急がせる」
「傷む物の時間に合わせる」
「権限は」
「ない。だから要求する」
蓑原は、長さ順の鉛筆を一本抜いた。
「買い取り価格を誰が決めます」
「昨日までの価格」
「援助到着前?」
「到着が知られた後に値崩れした価格は使わない。逆に、飢えを見て上げた価格も使わない。過去三か月の取引があれば中央値」
「記録がなければ」
「店主の申告だけにしない。買った人を三人探す」
「時間がかかる」
「魚は先に仮払い。後で差額」
「誰が差額を負う」
「買い取り側」
「誰です」
「まだいない」
蓑原が額を押さえた。
「条件だけ増えます」
「食べる人と売る人が増えたから」
無線へ、低い声が入った。
『買い取り側なら、道にいる』
塩戸景。
「盗んだ目録箱の人」
『運送組合だ』
「襲撃者」
『商店の荷を運んだ』
「両方」
『最初から言ってる』
「交渉へ入りたい?」
『入れろ』
「条件」
『地元在庫を援助と同じ卓で数える。輸送費を払う。車両損傷を無視しない。組合員を盗人の一語で外さない』
「襲撃責任も同じ卓へ」
『別の欄だ』
「逃げない?」
『おまえが、食事と賃金を別にしたのと同じだ』
「私の言葉を使わないで」
『便利だから使う』
「使用料」
『地元相場で払う』
小麦は嫌な顔をした。
七瀬が、少しだけ撮影機を下げる。
「今の顔は撮らない?」
「撮ったら、塩戸を嫌う理由が顔だけになる」
「嫌い」
「理由も撮る」
塩戸が続けた。
『廃料金所へ来い。全車を量れる。壁がある。机も残ってる』
「目録箱は」
『持っていく』
「先に写しを」
『卓で開く』
「燃やさない保証」
『ない』
「なら行かない」
『行かなければ、燃やす』
荷台の空気が止まった。
迅が無線へ入る。
『脅し』
『そうだ』
塩戸は否定しなかった。
『箱を盗んだ。偽目録を流した。人を水溝へ落としかけた。そこは記録しろ。その上で、地元の店を卓へ入れろ。入れないなら、この紙は援助側へも返さない』
「燃やしたら、店の記録も消える」
小麦。
『店の記録は別にある。消えるのは、援助側が誰の名で何を数えたかだ』
「不正の証拠」
『そう』
「自分の交渉のために燃やす?」
『燃やしたくないから、条件を言ってる』
「それ、食料を人質にしてないだけで同じ」
『紙質は違う』
「冗談?」
『少し』
「笑わない」
『知ってる』
小麦は鍋帳を閉じた。
「廃料金所まで何キロ」
由良。
「旧道で十四。今の車列なら一時間二十分」
「橋の損傷を避ける道」
「北へ三キロ迂回。合計十七」
「塩轍の車は」
「七台。鳥飼は運転しない。六台稼働、一台牽引」
「追走を止める?」
「交渉中は」
『料金所まで、こちらから接触しない』
塩戸。
「言葉だけ」
『七瀬が記録してる』
「記録が、車を止める?」
『止めなかったら、あとで値段が上がる』
塩戸のやり方だった。
信用ではない。
違反した時の費用を先に見せる。
小麦は、それを好きになれない。
好きになれないまま、使える部分を選ぶ。
「卓へ入れる」
小麦が言った。
「塩轍だけじゃない。地元商店九。受取地区三名方式の代表。援助側。運転手。厨房。記録。全員、同じ発言権じゃなく、担当欄を分ける」
『俺たちを補助席にするな』
「襲撃責任の欄で主役にする」
『嫌な招待だ』
「断れる」
『行く』
「目録箱は卓の中央。誰も単独で持たない」
『料金所へ着いたら』
「それまで開けない?」
『開けない』
「燃やさない?」
『おまえらがこちらへ接触しなければ』
「条件付き」
『車列も同じだ』
小麦は、前掛けの紐へ挟んだ折れた価格板を抜いた。
麦粉六十五。
横線。
《無料が来るまで売れません》
「塩戸。鳥飼澄江の板、私が持ってる」
『知ってる』
「返す」
『本人へ返せ』
「あなたを通さない」
『それでいい』
短い返事だった。
午後二時十四分。
車列は、廃料金所へ向けて再び動き出した。
援助車十二台。
塩轍六台と、牽引される一台。
互いの間、五百メートル。
同じ目的地へ向かう。
同じ隊列ではない。
小麦は折れた価格板を荷台前へ固定した。
その向こうで、塩戸の車に載せられた金属箱の角が、夕方前の光を反した。
午後二時二十二分。
走り出した車列の中で、小麦は価格を聞いた。
食数より難しかった。
鳥飼乾物。
「豆、一キロいくら」
『七十二』
鳥飼澄江。
「過去三か月の最高」
『七十六』
「最低」
『六十八』
「平均」
『知らない』
「販売記録」
『帳面はある。客の名前は出さない』
「金額と量だけ」
『それなら』
「販売希望三袋って言った。何キロ」
『一袋三十。九十』
「店に残す二袋は売らない?」
『金を積まれても、一袋は残す。もう一袋は、春の仕入れが決まれば売る』
「誰が決める」
『私』
「名義の息子は」
『帳面へ印をもらう』
「働く人と名義が違う」
『昨日言った』
「書いてる。代金の受取先は二人で決めて」
『面倒だね』
「全員言う」
『景も?』
「言った」
『なら、いい』
久瀬油店。
『一缶百九十』
「先月は」
『百三十』
「上げた理由」
『道が止まった。運送料が二倍』
「塩轍へいくら」
『一缶四十』
「前は」
『二十五』
「燃料価格は」
『一・三倍』
「運送料は一・六倍」
『危険手当』
「襲撃する側に?」
『襲われる道も走る』
「誰に」
『塩轍以外にもいる』
「名前は」
『言わない』
「今の価格を、そのまま買い取りには使わない」
『なら売らない』
「断れる。ただし、援助油が無料で配られても、店の油が売れない補償は別に考える」
『売らないのに補償?』
「援助が値段を壊した分。全部じゃない」
『誰が壊したと証明する』
「到着前後の価格と販売量。ほかの店。客の聞き取り」
『そんなに待てない』
「仮払い」
『いくら』
「先月百三十と今百九十の間。百六十」
『安い』
「過去三か月中央値が出たら差額」
『下がったら返す?』
「返さなくていい上限を決める。上がったら追加。下がったら次回仕入れ相殺」
『次回がなかったら』
「そこは未回答」
『商売で未回答は金がないのと同じだ』
「食堂では、未回答を無料労働で埋める」
『どっちがまし』
「どっちも嫌」
久瀬は、油缶八のうち四だけ、仮払い百六十で出すと答えた。
残り四は保留。
小麦は、売らなかった量も書いた。
市場は、売れた物だけでできていない。
売らずに残した棚が、翌日の選択になる。
路橋製粉。
『一・八トン、全部買え』
「共同厨房の今日と明日の使用上限は一・一」
『残りは保管しろ』
「倉庫」
『うちにある』
「所有は」
『買い取り側へ移す。保管料をもらう』
「援助が、あなたの倉庫を借りる?」
『道理だろ』
「保管中の湿損は」
『買い取り側』
「害虫は」
『不可抗力』
「あなたの倉庫の穴は」
『失礼な』
「写真を」
『ない』
「由良、行ける?」
『私を倉庫検査へ使う?』
「道と屋根」
『代表じゃない条件で』
「検査者」
『行ける。料金所から往復四十六分』
「迅」
『何』
「由良の護衛」
『本人へ聞く』
由良が割り込む。
『いらない』
「倉庫側が襲撃組合とつながってる」
『私も元侵攻側』
「だから安全?」
『だから、迅がいると交渉の圧になる』
「一人で?」
『地元から検査者を一人選ぶ。七瀬の小型機を借りる』
「撮影は」
『棚と穴だけ。家族の物は撮らない』
七瀬が言う。
『機材貸与。左肩を使わずに持てる小型。返却時、削除範囲を一緒に確認』
「決まり」
由良は、最短路を見つけてもすぐ走らなかった。
倉庫側の立会人が来るまで、車列へ残った。
待つことを、怠けと呼ばない練習をしているように見えた。
午後二時五十一分。
塩轍から、運送料金表が届いた。
紙ではない。
広報柱へ、一項目ずつ表示される。
《十キロ以下 一車一八〇》
《十~三十キロ 一車二九〇》
《塩橋危険加算 六〇》
《夜間加算 五〇》
《荷役 一人一時間二四》