第237話 第九章「砂塵の横転」前編
三月二十二日 午後四時二十九分
重さには、名前がない。
だから、間違えると人の名で呼ばれる。
環玉樹は、廃料金所の古い計量券を拾った。
黄ばんだ紙。
角に穴。
《第三通行口/前軸三・八/後軸五・二/総九・〇》
十二年前の数字だった。
車はもうない。
運転手も分からない。
それでも、どの軸へ何トン載っていたかは残っている。
「タマキ」
小麦が呼ぶ。
「卓、こっち」
「あと一枚」
「紙は逃げない」
「箱は逃げた」
「それを言われると弱い」
タマキは計量券を鉄の配達箱へ入れた。
箱の内側には、使い終わった切符、受取札、壊れた鍵、返却待ちの小物が、用途ごとに紐で分けてある。
集めるのが趣味ではない。
捨てる時に、誰の物だったか分からなくなるのが嫌なのだ。
中央料金台には、盗まれた目録箱が置かれている。
蓑原が右側。
塩戸景が左側。
小麦が中央へ十一の欄を書いた紙を広げる。
由良は地域別三名の連絡表。
七瀬は低い三脚。
轟は車両損傷表。
凱は運転手の休憩・続行確認。
迅は、料金台から十二メートル離れた柱へ背を預けている。
誰にも近すぎない。
誰かが箱を持って走れば、七歩を取れる距離。
タマキは、それを見て言った。
「逃げる人がいなかったら、迅は暇」
「暇がいい」
迅。
「何する」
「見る」
「何を」
「手」
塩戸は右手を箱へ置いている。
蓑原は鍵を持つ左手を、胸の前に置く。
どちらも、相手より先に動ける形だった。
「開ける前に確認」
タマキは料金台へ行った。
「箱、誰から」
蓑原。
「共同援助調整所から移動保管のため車列へ」
「誰へ」
「受取共同体。未確定」
「何のため」
「積荷の量、寄贈者、移転条件を確認するため」
塩戸へ向く。
「誰から」
「六号車から盗った」
「誰へ」
「今、卓へ返す」
「何のため」
「組合と地元商店を、受取人の外へ置かせないため」
「返したら、条件を決める権利は消える?」
「盗んだ箱を持つ権利は消える。交渉する権利は、箱から出ない」
タマキは蓑原を見る。
「鍵を開けたら、蓑原さんの物?」
「違います」
「じゃあ、二人とも手を離して。七瀬が撮って、由良と小麦が中身を一枚ずつ出す」
「なぜ、その二人」
塩戸。
「受取側と食料側」
「由良は代表じゃない」
「代表じゃないから、一人で持てない」
「小麦は援助側だ」
「厨房側。寄贈団体じゃない」
「おまえは」
「配達確認」
「十四歳が決める?」
「決めてない。質問した。嫌なら別の案」
塩戸は、少し考えた。
「轟も入れろ。車両別の積載がある」
蓑原。
「監査者の飯尾夏さん。車列外から確認した記録を持っています」
「六人は多い」
小麦。
「箱の周りが狭い」
「広い所へ移す」
タマキ。
「誰が持つ」
全員が箱を見る。
誰も手を出さない。
風が吹いた。
料金所の屋根から、古い料金表が一枚落ちた。
金属板が路面を滑る。
白い塩埃が、薄く立つ。
由良の顔が上がった。
「風、変わる」
「何分」
轟。
「もう」
西の地平が、白ではなく灰色になっている。
塩原の表面を削った風が、低い壁のように近づいてくる。
高さ、車二台。
視界を消す砂塵。
「全車、固定!」
凱が叫びかけ、止める。
「各運転手、風上へ車首を向けられるか。無理なら車輪止め。人は屋根下へ」
返事が重なる。
第一号車は空荷で、風に弱い。
第五号車は固形燃料を高く積んでいる。
第八号車は橋上で荷がずれたまま、仮固定。
塩轍の一台は牽引中。
小麦が目録箱へ手を伸ばす。
「先に中へ」
塩戸も同時に持つ。
「事務室は窓が割れてる。紙が飛ぶ」
「箱は閉じてる」
「開ける前に飛ばされたら、また私が盗ったことになる」
「実際盗った」
「二回目は嫌だ」
タマキは計量台を見る。
地面へ埋め込まれた長方形。
周囲より十センチ低い。
風を避ける窪みになる。
「箱、計量台の下」
「下?」
「点検蓋がある」
轟が蓋を開けた。
深さ六十センチ。
計量機は外され、空洞。
「湿気」
小麦。
「防水布」
蓑原が持ってくる。
箱を包み、六人で持つ。
誰も単独で持たない。
点検穴へ降ろす。
赤い発炎筒も入れない。
塩戸が自分の外套へ戻す。
「燃やさない?」
タマキ。
「卓へ入った」
「まだ交渉してない」
「席はある」
「席で足りる?」
「足りなければ、座って揉める」
突風が来た。
屋根の残骸が鳴る。
白い砂塵が料金所へ入る。
視界、四十メートル。
二十。
七。
人の輪郭が消える。
「声を出して!」
タマキは叫んだ。
「誰がどこ!」
『第一号車、峰岸。車輪止め二。右前が浮く!』
『第二、江橋。風上へ車首。油缶固定』
『第五、柿沼。荷台側板が開く!』
『塩轍三番、運転手遠野。牽引車が横へ流れる!』
声が位置になる。
タマキは、料金所の古い通行口番号を見た。
一から八。
屋根柱へ大きく残っている。
「全員、通行口番号も言って!」
『第一、二番口!』
『第五、六番!』
『塩轍三、八番!』
音と番号を鉄箱の紙へ書く。
砂塵で目を開けにくい。
緑の帽子を深くかぶる。
六番口から、金属の裂ける音。
第五号車の荷台側板が外れた。
固形燃料箱が二つ、道路へ落ちる。
一つは止まる。
もう一つが転がる。
七番口の塩轍車の前輪へ入った。
運転手が避ける。
車体が横を向く。
風を側面で受ける。
「七番、車首戻して!」
タマキ。
『見えない!』
「左に一番柱。右に八番柱。今、車は六と七の間。ハンドル右へ半回転!」
『誰だ!』
「タマキ! 配達員!」
『免許は!』
「ない!」
『何で指示する!』
「計量券で車軸の向きが分かる!」
『意味が分からない!』
「あとで説明! 右半回転!」
運転手が切る。
車首が風へ向く。
横転を免れる。
次の突風。
八番口で、牽引中の塩轍車が動いた。
牽引索が斜めに張る。
前の車を後ろへ引く。
後ろの壊れた車は横へ流れる。
二台の間にいた組合員が、索へ脚を取られた。
「人!」
七瀬の声。
『八番口、索の内側!』
迅が走る。
白い砂塵の中で、黒い影だけが低くなる。
索を飛び越えない。
張力を読む。
次に緩む瞬間を待つ。
一秒。
二。
前車のタイヤが滑り、索が一瞬垂れる。
迅は組合員の外套を掴み、円の外へ引く。
索がまた張る。
地面を打つ。
間にいた人は、二十センチ外へ出た。
「脚」
迅。
「動く!」
「走るな。這え」
「目録箱が!」
「穴の中」
「取られる!」
「今は人」
組合員は、這う代わりに箱の方を見た。
迅が頭を押し下げる。
飛んだ金属片が、その上を通った。
「見るな」
「紙が」
「逃げない」
「おまえが言う?」
「タマキの言葉」
八番口の牽引車が、さらに横へ流れる。
タイヤが計量台の縁へ落ちた。
車体が傾く。
荷台に積まれていた地元商店の油缶が、片側へ寄った。
左二十一缶。
右、空箱。
重心が一気に左へ。
「横転する!」
轟の声。
『左側を支えろ!』
「人だけじゃ無理!」
タマキは、古い計量券を見る。
前軸。
後軸。
総重量。
車の側面には、積載表示がある。
《車体三・二/最大積載四・〇》
油缶一つ二十リットル。
缶重量を入れて約十九キロ。
二十一で三百九十九。
工具、タイヤ、空箱。
総積載は一・二トン前後。
車体と合わせ四・四。
人間で支え切れない。
しかし、全部を持つ必要はない。
倒れる速度を遅くし、油を反対へ移す。
「左を支える人、四人まで! ほかは油缶を右へ!」
『誰が決めた』
塩戸。
「表示と缶数!」
『缶の中身は全部満タンじゃない!』
「何缶」
『満タン八、半分六、空七!』
「重い順に右へ。満タン一、半分二、満タン一!」
『どうしてその順』
「一気に重さを移すと反対へ倒れる! 小さく挟む!」
塩戸が車体左へ入った。
迅も来る。
二人は傾いた荷台の縁へ肩を当てた。
轟が止める。
「迅、右肩。塩戸、左肩は使うな」
「何で知ってる」
塩戸。
「持ち方」
「折れたのは昔だ」
「昔の骨ほど、無理な癖が残る」
「説教は後」
「構造条件だ」
塩戸は左肩を外し、腰と右前腕で車体を押す。
迅は右掌の包帯を避け、前腕で受ける。
車体が二度傾く。
油缶を運ぶ者が、荷台へ入る。
「一缶目!」
タマキ。
満タンを右へ。
車体が少し戻る。
「半分二!」
運ぶ。
「待って!」
後輪が計量台の縁から外れかける。
タマキは券の穴を見る。
昔の計量台は、前軸と後軸を別々に載せる。
縁の内側、四十センチに支持梁がある。
今の後輪は、その外へいる。
「車を前へ三十センチ!」
『動かしたら倒れる!』
塩戸。
「後輪の下に梁がない! 今のまま支えたら台の縁が割れる!」
轟が地面を叩く。
音を聞く。
「タマキが正しい。空洞だ」
「誰が運転」
塩戸。
「遠野!」
『脚を擦っただけ。乗れる!』
「入れ!」
遠野が運転席へ這う。
視界は二メートル。
前進三十センチ。
車体を支える二人は、足を動かさなければならない。
迅と塩戸は互いの間にいる。
離れれば倒れる。
近づけば、肩がぶつかる。
「三十。ゆっくり」
タマキ。
車が動く。
迅が右足を前へ。
塩戸も同時に出す。
足が当たる。
塩戸が踵で迅の足首を払う。
「邪魔」
「そっち」
迅は払われた足を戻さず、塩戸の靴先を踏む。
「重い」
「車より軽い」
「比べるな」
二人は車体を支えたまま、足元だけで場所を奪い合う。
塩戸は右膝を迅の腿へ入れる。
迅は腰を引けない。
引けば荷台が落ちる。
腿を固めて受ける。
前腕を車体へ残したまま、左肩で塩戸の位置を押し返す。
「戦う必要ある?」
タマキが叫ぶ。
「ある」
二人が同時に答えた。
「何で!」
「場所」
迅。
「支点」
塩戸。
「同じ意味!」
「違う」
また同時。
「後で!」
車が三十センチ進む。
後輪が支持梁の上へ乗る。
計量台の縁が、低く鳴った。
割れない。
「油、次!」
タマキ。
満タン一。
半分二。
空缶は動かさない。
車体角度が、十二度から九。
七。
五。
突風が弱まる。
視界が三メートルへ戻る。
その時、点検穴の防水布がめくれた。
目録箱の銀色が見える。
遠野が運転席から飛び降りた。
「箱!」
負傷した組合員を跨ぎ、点検穴へ走る。
「遠野!」
塩戸が怒鳴る。
「先に押さえる!」
「人を見ろ!」
「迅が助けた!」
「助けた後なら置いていいのか!」
「箱を取られたら――」
塩戸は車体から手を離しかけた。
車が傾く。
「離すな!」
タマキ。
塩戸は戻す。
車体を支えたまま、声だけを投げる。
「遠野岳! 箱を持ったら、今日から運転を外す!」
遠野の足が止まった。
「組合のためだ!」
「組合員を置く組合に、荷主は来ない!」
「こいつは歩ける!」
「本人に聞け!」
負傷した組合員が地面で言った。
「歩ける。でも、今は起きると吐く!」
「聞いたか!」
塩戸。
「箱は逃げない。そいつを屋根下へ運べ!」
遠野は、目録箱を見た。
負傷者を見る。
拳を一度、腿へ当てる。
箱へ背を向けた。
「誰か、反対持て!」
迅が車体を支えたまま叫ぶ。
遠野は負傷者の肩を持つ。
鳥飼が固定した右足を引きずりながら来る。
「おまえは座ってろ!」
塩戸。
「腕は使える!」
「足を悪化させたら、帰りの皿洗いが減る!」
「それは困る!」
鳥飼はその場へ座り、地面を這う形で負傷者の脚を持った。
二人で屋根下へ運ぶ。
タマキは、その順番を記録した。
《遠野、箱より負傷者を運ぶ。塩戸の指示。本人、歩行可能だが嘔気》
善人になったとは書かない。
襲撃が消えたとも。
一つの場面で、何を先にしたかだけを書く。
午後四時四十三分。
砂塵の壁が料金所を抜けた。
視界が戻る。
横転しかけた車は、四輪で立っている。
油缶は右と左へ分かれた。
迅と塩戸は、まだ車体へ腕を当てていた。
「もう離していい」
轟。
二人は同時に離す。
塩戸が迅の靴を見る。
「踏んだ」
「膝を入れた」
「相殺?」
「別々に記録」
塩戸が少し笑った。
「小麦の言葉が増えた」
「嫌」
「同意」
タマキは点検穴へ行った。
防水布を戻す。
目録箱は、同じ場所にある。
砂塵で蓋が白くなった。
負傷した組合員の名を確認する。
「誰から」
「塩轍の車から落ちた」
「違う。名前」
「久慈原学」
「年齢」
「二十二」
「誰へ運ぶ」
「屋根下の救護場所」
「何のため」
「吐かないよう寝る」
「目的が少し違う。頭を打ってるか確認」
小麦が言った。
「本人の言葉を直すな」
「じゃあ二つ書く」
タマキは記した。
《本人目的・吐かないよう寝る/救護目的・頭部打撲確認》
同じ移動にも、送り主と受取人で目的が違う。
どちらか一つへ揃えると、片方が消える。
塩戸は目録箱の上へ手を置かなかった。
代わりに、久慈原の隣へしゃがむ。
右耳を相手へ向けない。
聞こえる左耳を近づける。
「名前」
「さっき言った」
「自分で聞く」
「久慈原学」
「どこが痛い」
「頭。右肘。あと、景の声」
「それは治らない」
「知ってる」
遠野が、点検穴の前で立っている。
箱を取らない。
塩戸が振り向かずに言った。
「遠野」
「何」
「今、何を置いた」
「目録」
「違う。組合の信用を拾い直した」
「言い方が高い」
「請求する」
「誰に」
「自分へ」
遠野は返事をしなかった。
タマキは、その会話を記録しない。
本人たちが、仕事の言葉として言ったのか、後で恥ずかしくなる言葉なのか分からなかった。
代わりに、目録箱と負傷者の距離を測る。
七・八メートル。
箱は一度も動かなかった。
人は、そこから屋根の下へ運ばれた。
午後四時五十一分。
砂塵が通り過ぎても、車列は動かなかった。
動けないのではない。
動かしてよい順が分からない。
道路には、固形燃料箱二つ。
折れた側板。
牽引索。
油缶。
飛ばされた荷札。
人が拾えば片づく物ばかりだった。
どの物を先に動かすかで、別の物が動く。
「第五号車、側板がない」
轟。
「走らせるなら、荷を低く組み直す。固形燃料を四号車と九号車へ」
「四号車は粉乳代替。湿気を避けたい」
蓑原。
「燃料箱は密閉。床へ置く。粉乳の上には置かない」
「九号車は補修資材」
「重量は余る」
「申告上は」
「車体を見る」
轟は計量台を叩いた。
「ここを直す」
「使える?」
タマキ。
「指針はない。床下のてこは残ってる」
「数字は」
「比較ならできる。既知の重さを載せて、梁の沈みを測る」
「既知の重さ」
「第一号車」
「空荷だけど、車体重量は表示にある」
「三・四トン」
「工具と水がある」
「降ろして量る」
「量る物を量るには、先に量る必要がある」
迅が言った。
「そうだ」
轟。
「面倒」
「今日は全員言う」
タマキは鉄箱から、古い計量券を全部出した。
十二枚。
軸重。
車種。
通行口。
手書きの補正値。
一枚だけ、裏へ小さく書かれている。
《塩湿時、指針+〇・二》
「これ」
轟が受け取る。
「湿ってる時の補正」
「今は乾いてる」
「さっき砂塵。計量台の縁に塩が入った」
「沈みが減る。逆補正が要る」
「誰が書いたか分からない」
「でも、同じ筆跡が三枚にある」
タマキは三枚を並べた。
《塩湿時+〇・二》
《北風時、後軸再計》
《三番口、左梁鳴り》
名前はない。
仕事の癖だけが残っている。
「昔の計量係」
轟。
「名前、調べられる?」
七瀬。
「今は要らない」
タマキ。
「どうして」
「役に立つから名前を探すと、役に立たない人の名前を探さなくなる」
「それ、小麦の言葉?」
「半分」
「もう半分は」
「私」
「記録する」
「やめて」
「公開しない」
「格好つけたみたい」
「少し」
タマキは帽子を深くかぶった。
第一号車から、工具、水、担架、空袋を下ろす。
一つずつ重さを確認する。
工具箱、三十八キロ。
水、二十リットル缶四。容器込み八十六。
担架二、二十四。
空袋、十五。
ほか、百二十七。
車体表示三・四トン。
合計三・六九。
第一号車を計量台へ載せる。
轟が床下の梁へ測定棒を当てる。
沈み、十二・三ミリ。
「一トンあたり三・三三ミリ」
タマキが言う。
「線形なら」
轟。
「違う?」
「梁は重くなるほど沈み方が増える。二点必要」
「もう一台」
「申告が信用できない」
「油缶を一つずつ足す」
「塩轍の油?」
「満タンは重さが分かる」
塩戸が聞いていた。
「一缶、液体十八・四。缶一・二。合計十九・六」
「どうして小数」
「油店の秤」
「信用できる?」
「同じ秤で全部量った。絶対値がずれても、比較には使える」
轟が頷く。
「十缶借りる」
「料金」
「使わない。戻す」
「待機料」
「今、そっちの車を戻した時間と相殺しない」
「別々に書く?」
「そうだ」
塩戸は、油缶十を出した。
「運ぶ人」
タマキ。
「うち五、そっち五」
「同時に載せない。二缶ずつ」
タマキは順番を決めた。
油缶を載せる。
沈みが増える。
五缶。
十缶。
二点目。
だが、二点を線で結んでも、第八号車の値だけ合わなかった。
表示より三百キロ軽い。
「食料が消えた?」
蓑原。
「決めるの早い」
タマキは、計量台の周囲を一周した。
右後輪だけ、鉄板の外縁へ半分乗っている。
「車が大きい」
「台が小さい」
轟。
「十二年前の規格だ」
「全部載らないと量れない?」
「軸ごとなら」
「前だけ、後ろだけ」
「坂がある。水平を作る必要」
塩戸が、荷締め板を四枚出した。
「塩轍の車で使う輪止め板。厚さ同じ」
「曲がってる」
轟。
「道が曲げた」
「二枚重ねて、左右を逆にする」
「料金」
タマキ。
「また聞く?」
「借りる人と返す人が要る」
「塩戸景から、計量作業へ。破損したら材料代」
「誰が払う」
「壊した側。原因不明なら半分ずつ」
「記録」
七瀬が書く。
四枚を計量台の前後へ置く。
第八号車を、前軸だけ載せる。
後軸。
もう一度、前軸。
同じ値にならない。
「運転手、ブレーキ踏んでる?」
タマキ。
『踏んでる』
「一回目と二回目、足の強さ同じ?」
『分からない』
「踏まないで輪止め」
『風で動く』
「左右四つ。人は車外」
運転手が降りる。
車を止める仕事を、足から木へ移す。
三回目。
値が揃う。
「ブレーキの力が、前軸へ移ってた」
轟。
「人の足まで重さに入る?」
「力として」
「じゃあ、数字は車だけじゃない」
「計り方も入る」
タマキは、計量券の裏へ書いた。
《制動なし。四輪止め。運転手降車》
「古い券へ書くの」
七瀬。
「別紙だと、また離れる」
「原本は昔の人の記録」
「裏に余白がある」
「追記者名」
「環玉樹」
「日付」
「三月二十二日」
「目的」
「同じ間違いをしないため」
七瀬は頷いた。