第243話 第十二章「届けた者の名前」前編

三月二十三日 午後零時十四分

 食料は、到着しただけでは食事にならない。

 袋は袋だ。

 豆は硬い。

 油は火へ近づけすぎれば燃える。

 麦粉は、水を間違えると腹より先に床を満たす。

 土門小麦は、旧軌道宿舎の共同厨房で、乾燥芋の箱を開けた。

 蓋の裏へ、十一人の名前が書いてある。

 寄贈団体の担当者。

 積み込みをした倉庫係。

 第十二号車の運転手、三枝遥。

 荷札を書き直した環玉樹。

 受取確認をした三人。

 一人は、名前の代わりに《非公開》とある。

「箱まで名簿にするの」

 宿舎の調理者、河西ミナが言った。

 六十代。髪を短く刈り、前歯が一本欠けている。左手の小指に、糸を巻いていた。

「糸、何」

「塩を入れたら外す」

「忘れる?」

「忘れたことはない」

「じゃあ、なんで」

「忘れないため」

 小麦は頷いた。

 無意味に見える行動には、だいたい本人にしか分からない意味がある。

 本人にも分からない時は、もっと強い。

「名前は箱を食べた人に見せるためじゃない。どこで足りなくなったか、後で辿るため」

「足りなくならなかったら」

「書いた人の手が無駄になる」

「無駄でいいじゃない」

「そう。事故の記録は、使わないのが一番いい」

 河西が笑った。

「小さいのに、年寄りみたいなことを言う」

「年寄りに失礼」

「じゃあ、鍋みたい」

「鍋に失礼」

「鍋へ謝る?」

「焦がした時だけ」

 厨房の外では、獅堂凱が荷札を読んでいた。

 中央へ立たないという条件を守り、壁際にいる。

 左膝の装具へ、白い塩埃が付いていた。

「乾燥芋、百八十キロ。石鹸、四十箱。布、二十二反。栄養食、六十箱。油――」

「もっと小さい声で」

 宿舎の男が言う。

「列を作る声に聞こえる」

「了解」

 凱は、半分の声量へ落とした。

 深い声は、小さくしても壁へ届く。

「読まなくてもいい物は」

「ない。ただし、一度でいい」

「分かった」

 王だった男は、荷札を一度だけ読んだ。

 聞き逃した人がいた時は、その人のところへ紙を持っていった。

 二度目の全体放送はしなかった。

 それだけで、声の意味が変わる。

 命令は、届く範囲を広げたがる。

 説明は、聞く人のところまで歩く。

 午後零時三十一分。

 受取人を並ばせないため、荷を三つへ分ける。

 共同厨房。

 各棟の小棚。

 翌日まで保留する倉庫。

「保留が多い」

 三枝が言った。

「悪い?」

 小麦。

「運んだ側は、空にして帰りたい」

「分かる。荷台が空だと仕事が終わった感じがする」

「感じじゃなくて終わる」

「受け取る側が決めてなかったら、終わってない」

「車はいつまで置く?」

「荷は降ろす。判断は置かない」

「何それ」

「倉庫へ移す。鍵は三人。明日、不要なら別の地区へ戻す」

 三枝は荷台を見た。

 空にしたい顔をした。

 それから、保留倉庫へ向けて車を下げた。

「空車にするのは好き」

「知ってる」

「でも、全部受け取ったことにはしない」

「それでいい」

 小麦は、河西の鍋を覗いた。

 乾燥芋は、まだ硬い。

「水、少ない」

「古い芋は、最初から入れすぎると割れる」

「硬いままより、割れた方が食べられる」

「歯がない人にはね」

「歯がある人は」

「少し硬い方が、食べた気がする」

 小麦は口を閉じた。

 栄養だけなら、一つの鍋で済む。

 食べた気持ちまで同じにしようとすると、鍋は増える。

「二つに分ける?」

「火が足りない」

「油を使う?」

「明日の分」

「じゃあ、途中で取り分ける。最初は硬め。残りへ水」

「手間」

「賃金が出る」

「本当に?」

「出させる」

 小麦は炊事労働台帳を開いた。

 河西ミナ。

 仕分け、二時間。

 加熱、三時間予定。

 燃料運搬、別担当。

 片付け、食べた人へ募集。

「片付けも仕事?」

「手伝いなら本人が選ぶ。仕事なら払う」

「食べた人が皿を洗うのは」

「共同生活の当番。賃金とは別。断れないなら当番表を見直す」

「線が多いね」

「線を引かないと、善意が全部を食べるから」

 河西が塩の糸を外した。

「鍋より食べる?」

「鍋は底が見える」

 午後一時二分。

 食事を始めない。

 まだ二人、戻っていない。

 宿舎の外へ水汲みに出た二人。

 以前なら、全員分を並べて待った。

 今は、先に食べたい人と、待ちたい人へ分かれる。

 小麦は鍋を二つの保温箱へ移した。

「一緒に食べると仲良くなるって、よく言う」

 凱が壁際で言った。

「なる時もある」

「ならない時は」

「嫌いな人と、熱い汁をこぼさない努力だけ共有する」

「それも関係か」

「人間関係は、仲良しだけじゃない」

「王と住民も?」

「今その話をするなら、皿を洗って」

「了解」

 凱は装具を曲げすぎない高さの台を探し、椅子へ座って皿を洗った。

 彼が洗うと、皿は一枚ずつ大きな音を立てた。

「割らないで」

「割っていない」

「皿が怖がってる」

「皿に聞いたか」

「鍋の親戚」

「適当だな」

「少し」

 迅の真似をすると、凱は鼻で笑った。

 午後二時十九分。

 最初の食事が終わる。

 拍手はない。

 到着祝賀もない。

 河西が鍋底へ残った芋を一つ、木匙で押した。

「いつもより柔らかい」

「水を足したから」

「それだけ?」

「塩路を走ったから、塩味が付いた」

「嘘」

「少し」

 小麦は笑わなかった。

 眠気が来ていた。

 低血糖ではない。

 それでも、指先が冷える。

 朝から端パンと豆蜜しか食べていない。

 河西が硬めに取り分けた芋を一つ投げた。

 小麦は左手で受ける。

「調理者が最後に食べるの、禁止って帳面に書いて」

「もう書いてある」

「守ってない」

「今、食べる」

「見てる」

 小麦は食べた。

 少し硬い。

 歯がある人のための硬さだった。

 三月二十三日 午後三時四十六分

 環水三号塔。

 七瀬火群は、顔を撮らなかった。

 正面扉の前で、秤の皿だけを撮る。

 麦粉四十キロ。

 地元商店から買った豆、二十キロ。

 援助油、一箱。

 鳥飼乾物の札。

 受け取る手。

 返される手。

 署名する手。

 非公開を示して、紙を裏返す手。

「顔を出した方が、支援が集まる」

 蓑原が言った。

「集めたい人は出せる」

 七瀬。

「寄贈団体は、成果報告へ人物写真を求めています」

「食料が届いた証拠は、秤と荷札と空になった棚で足りる」

「感情が伝わりません」

「感情を提供する契約はない」

「受取人が笑っていたら」

「笑ったことと、公開してよいことは別」

 塔の住民、チカが近づいた。

 顔は映さない。

 鍵を持つ手だけが画角へ入る。

「私は、鍵を回すところなら出していい」

「音も?」

「二回」

「名前は」

「チカだけ」

「所在は」

「環水三号塔まで」

「公開期間」

「三十日。後は、映像じゃなく記録だけ残す」

「了解」

 七瀬は、小さな卓上三脚を床へ置いた。

 左肩を上げない。

 チカが鍵を二度回す。

 かちり。

 かちり。

 倉庫が開く。

 中は空ではない。

 塔に残っていた古い豆が、三袋。

 新しい援助豆の隣へ並べる。

「古い方から?」

 小麦が無線で訊く。

『先に使う。虫確認済み』

 七瀬。

「混ぜないで」

『味?』

「値段と所有者。古い豆は塔の物。援助豆とは別に数える」

『了解』

 カメラは、二種類の豆袋を映した。

 見た目はほとんど同じ。

 同じに見えるから、名前が要る。

 三月二十三日 午後五時二十八分

 東高架下。

 第五号車の側板を、風除けへ使わなかった。

 現地の人が断ったからだ。

「車を壁にしたら、帰る時に寒くなる」

 柿沼リサが理由を聞く。

「帰った後、もっと寒い」

「じゃあ、布だけ置く」

「布は要る」

「側板は」

「要らない」

「了解」

 柿沼は、役に立てる物を全部置きたそうな顔をした。

 それでも車体を戻す。

 代わりに、現地の壊れた看板を固定する。

 看板には、店の名前が残っている。

《砂浜雑貨》

 砂浜は近くにない。

「どうして砂浜」

 タマキ。

「店主が、黒雨前に海を見た」

「一回?」

「一回」

「それで店名?」

「一回で足りる名前もある」

 タマキは看板の裏へ、受取量を書かなかった。

 店の看板を目録にしない。

 別の白板へ、店主が公開を許した範囲だけを書く。

 店は、その日の夕方に開いた。

 援助食料を売らない。

 地元から買い取った蝋燭と針、乾燥果実を並べる。

 最初の客は、援助車の運転手だった。

「針一本」

「一本じゃ売らない」

「何本」

「三本」

「一つしか要らない」

「残りを誰かにやればいい」

「無料で?」

「売ってもいい」

 運転手は三本買った。

 一つを使い、二つをポケットへ入れた。

 小さな商いは、援助の横で再開した。

 援助を拒否したからではない。

 援助がある間も、店の値札を残すためだった。

 三月二十四日 午前六時九分

 廃料金所の第四通行口。

 仮倉庫へ残った食料は、五・七四トン。

 受取保留。

 調理者不足。

 道路未確認。

 公開範囲の再確認。

 理由ごとに棚を分ける。

 ただ《余り》とは書かない。

 余りは、持っている側の言葉だ。

 待っている側には、まだ届いていない。

 小麦は、床へ座って鍋帳を更新した。

 右足裏が熱い。

 足底腱膜の痛みは、起きた直後が一番強い。

 歩けば少し薄れる。

 薄れると、治った気になる。

 治った気になると、また立ち続ける。

「寝た?」

 迅が来た。

 右掌へ薄い包帯。

「三時間」

「足りない」

「迅は」

「四時間」

「勝った顔しないで」

「一時間多い」

「手、見せて」

「医者に見せた」

「私にも」

「何のため」

「荷役へ入れないため」

 迅は右手を出した。

 古い四センチの傷痕に沿って、皮膚が少し裂けていた。

 昨日の暴走車で開いた。

 縫合はない。

 打撃と強い把持を三日避ける。

「三日」

 小麦。

「知ってる」

「今日は数えるだけ」

「数えるのはタマキ」

「じゃあ、寝る」

「それは小麦」

「私は帳面」

「帳面は逃げない」

「食料は傷む」

「小麦が倒れる方が、数字が消える」

「写しがある」

「本人は一人」

 迅は、正しいことを言った後に困る顔をした。

 言い慣れていない。

「名言みたいに言わないで」

「違う」

「何」

「眠そうだから、短くした」

 小麦は鍋帳を閉じた。

「二時間」

「四」

「三」

「俺に決める権限はない」

「じゃあ、どうして交渉した」

「小麦に決めさせるため」

「腹立つ」

「寝てから」

 小麦は毛布へ入った。

 迅は荷物を持たない。

 右手を守るためだけではない。

 仮倉庫の番をする三人へ、自分の役割を確認し、一時間ごとに交代表を読む。

 拳が使えない時、迅は声を使う。

 声が使えない時は、立っている。

 立っているだけでは足りない時に、誰かへ頼む。

 少しずつ、退く以外の退き方を覚えていた。

 三月二十四日 午後三時十六分

 塩戸景は、鳥飼乾物の前で食事代を払った。

 豆粥一杯。

 漬け菜。

 塩水。

「豆、嫌いじゃなかった?」

 小麦。

「運転中に食う豆が嫌い」

「なぜ」

「腹の中で荷崩れする」

「しない」

「俺はする」

 塩戸は硬貨を数え、価格板の通り置いた。

 値引きなし。

 釣りなし。

「運送を手伝った人は無料」

 鳥飼澄江が言う。

「運送賃を取った」

「食事は別」

「だから払う」

「景は、無料の物を食べると死ぬ病気?」

「次に値段を付けにくくなる病気」

「面倒な病気」

「商売は、治らない方がいい病気だ」

 澄江は硬貨を受け取った。

 そのまま一枚だけ返す。

「釣り」

「ちょうど払った」

「今日は漬け菜が半額」

「価格板にない」

「今、書く」

 澄江は板へ書いた。

《漬け菜 午後半額》

 塩戸は返された硬貨を取った。

「公開された値引きなら受ける」

「融通が利かない」

「利かせた場所が、目録箱だった」

 空気が止まった。

 鳥飼至が、固定具の付いた足を椅子へ載せている。

 彼は匙を置いた。

「俺が箱を取ったわけじゃない」

「旗は取った」

 塩戸。

「命令したのは景」

「旗を使えと言った。老人の車を誤誘導しろとは言ってない」

「同じ作戦だ」

「違う責任だ」

「分けたら、俺だけ悪くなる」

「分けなければ、誰も自分の分を持たない」

 鳥飼は顔を背けた。

 小麦は口を挟まない。

 豆粥を掻く音だけが続く。

 塩戸は、食事を終えてから言った。

「個別審理へ一緒に出る。庇わない。先に逃げない」

「組合から切る?」

「審理前に決めない」

「終わったら」

「その時、また聞け」

 鳥飼は匙を戻した。

「豆、冷えた」

「豆は冷えても豆だ」

「名言みたい」

「違う。まずいって言ってる」

 澄江が鍋蓋で塩戸の後頭部を軽く叩いた。

「作った人の前で言うな」

「俺が作った」

「じゃあ、もっと言うな」

 小麦は鍋帳へ書いた。

《豆粥一杯。調理者、塩戸景。補助、鳥飼澄江。食べた者、三人。味の評価は記録しない》

「そこは書かないの」

 塩戸。

「数字にできない」

「二点」

「何点満点」

「十」

「本人申告として書く?」

「やめろ」

 小麦は少し笑った。

 仲直りではない。

 食べた後にも、盗んだ紙と奪った旗の審理は残る。

 同じ卓へ座ったことを、同じ側になったことへ変えない。

 三月二十五日 午前十時三十八分

 四十八袋の麦粉について、廃棄記録を作る。

 塩橋で捨てた一・九二トン。

 袋番号。

 荷主。

 予定受取先。

 判断時刻。

 判断者。

 理由。

《橋面崩落と車両転覆回避。人命を優先》

 蓑原は、損失欄の横へ《やむを得ない》と書こうとした。

 小麦が止める。

「書かない」

「事実でしょう」

「やむを得なかったかは、後から見る人が決める。私たちは、何を見て捨てたかを書く」

「責任追及に使われます」

「使われる」

「善意の援助で、人を救うためでした」

「善意も、人を救ったことも、袋が消えたことも、全部同じ紙」

「寄贈者が次を断るかもしれない」

「断る権利がある。隠したら、次に断る理由をもっと大きくする」

 蓑原は、《やむを得ない》を消した。

 代わりに、橋面傾斜、残り幅、風速、後続車数、退避人数を書く。

 迅の名もある。

 轟。

 由良。

 運転手。

 袋を落とした四人。

 袋を落とすよう叫んだ小麦。

 決断は一人ではない。

 責任も、全員同じではない。

「英雄欄は?」

 タマキが訊いた。

「ない」

「悪者欄」

「ない」

「じゃあ、読む人が困る」

「困って考える」

「帳面って、不親切」

「親切すぎる帳面は、考える場所まで書いた人に取られる」

 タマキは、四十八袋の番号を数えた。

 四十七。

「一つ足りない」

 全員が止まる。

 紛失。

 二重計上。

 誤記。

 タマキは、破れた袋片を床へ並べた。

 油性の数字。

 二枚が重なる。

「十二番が二つ」

「袋の印刷ミス?」

 蓑原。

「違う。片方は百二。百が擦れてる」

 タマキは指で粉を払った。

 薄い一と〇が現れる。

 四十八。

「見つけた」

 誰も拍手しない。

 タマキは、拍手を求める顔もしない。

「箱の数字は、磨くと増えることがある」

「普通は減る」

 迅。

「今日は増えた」

「一袋、戻った?」

「戻ってない。名前が戻った」

 小麦は、袋番号一〇二と書き直した。

 捨てた食料は戻らない。

 それでも、無かったことにしないための名前は戻せる。

 三月二十六日 午後一時五分

 北塩七区から、調理者二人の熱が下がったと連絡が来た。

 保留していた二十食分。

 すぐ送らない。

 もう一度、三人確認を取る。

 一人目。

 必要。

 二人目。

 必要だが、量を十五食分へ変更。

 三人目。

 今日は地元店の乾麺を買えるので、十食分だけ。

「最小に合わせる?」

 蓑原。

「違う」

 小麦。

「十食は全員が同意。残り五食は、一人が保留。残り五食は、二人が不要」

「細かすぎます」

「食べる人の数が細かい」

「一袋を分ける手間が」

「賃金へ入れる」

「何でも賃金で解決しないでください」

「無償で解決するよりまし」

 十食分を送る。

 五食分は翌朝まで保留。

 五食分は、別の希望地区へ回すため再確認。

 車は一台ではない。

 大きな援助車を出す必要もない。

 塩轍の小型車が、公開運賃で引き受ける。

 運転手は遠野岳。

「援助旗は」

「載せない」

「寄贈者名」

「荷札へ」

「俺の名」

「運転欄へ」

「塩轍の名」

「契約欄へ」

「襲撃責任」

「審理欄へ」

「一枚に入る?」

「裏も使う」

 遠野が笑った。

「紙が重くなる」

「食料より軽い」

「紙で車軸は折れない」

「紙が無いと、後で人間関係が折れる」

「それ、誰の言葉」

「今作った」

「借りる」

「運賃」

「高いな」

 小型車が出る。

 寄贈旗はない。

 塩轍の灰色帆も畳んでいる。

 ただ、荷札と運賃表が風に鳴った。

 三月二十七日 午後四時二十二分

 白沼沿道から、魚箱が一つ戻った。

 傷んではいない。

 受取側が量を減らした。

 帰りの車へ載せた。

「返すのは失礼だと言われた」

 野々村葉が言った。

「誰に」

「同行した葛西」

 葛西が横から言う。

「俺は、失礼だとは言ってない。寄贈団体がそう取るかもしれないと言った」

「同じ」

「違う」

「じゃあ、葛西はどう思う」

「腐らせるより戻せ」

「最初から言って」

「聞かれてない」

「面倒な人」

「運転手は、聞かれた道だけ答える」

「道以外も話してた」

「魚が臭うから機嫌が悪い」

 箱を開ける。

 塩漬け魚。

 品質に問題なし。

 戻り理由を記録する。

《受取量変更。拒絶ではない。翌週分を地元漁商から購入予定》

 魚箱は仮倉庫へ戻す。

 別地区へ勝手に回さない。

「援助は、返すと怒る?」

 タマキ。

「人による」

 小麦。

「贈り物は、受け取られるまで贈った側の夢が付いてる。返すと、その夢が壊れる」

「夢は食べられない」

「だから、箱と分ける」

「どうやって」

「返却理由を書く。次は何を買うかも書く。感謝を書くかは本人が決める」

「ありがとうって言わないと、次が来ないかも」

「言いたい人は言う。食料を受け取る条件にしない」

 野々村は、返却箱の横へ自分の名を書いた。