第248話 第二章「白衣の中立」後編

「三号車を空に?」

 隊員。

「病院から追加患者が出るかもしれない」

「中立車を奪われた直後です」

「だから、誰が乗るか確認する」

「もう運ばない方が」

「病院の中で運べない人がいる」

「外へ出すのが罠なら」

「本人、医療、経路。三つ確認。足りなければ動かさない」

「四つ目は」

「受入先」

「さっき三つ」

「増えた」

「仕事中に規則を増やすんですか」

「仕事中に穴が見えた」

 隊員は不満そうだった。

 それでも復唱する。

「本人、医療、経路、受入」

「受けた」

 病院の搬入口から、サナが走ってくる。

 手に白い布。

「四号車を覆う物。病棟の古いシーツ」

「患者使用」

「廃棄予定」

「理由」

「血染み。洗浄済み。穴二つ」

「受けた」

「そこまで聞く?」

「何を覆ったか、後で分からなくなる」

 サナはシーツを投げる。

 澪は左手で受けた。

 白い布には、薄い褐色の染みが残っていた。

 中立の白印を、元患者のシーツで覆う。

 きれいな白を、使われた白で隠す。

「四号車の運転手、南野」

 サナ。

「見つかってない」

「車外の血は少量」

「知ってる」

「家族連絡」

「本人の公開範囲」

「独居。連絡先一名。姉」

「今は連絡しない」

「どうして」

「生死不明のまま、奪われた車だけ伝えると、情報が足りない」

「待たせる?」

「三十分。捜索結果がなければ、分からないことごと伝える」

「誰が」

「私」

「隊長が」

「私が運転手名簿に署名した」

 澪は胸の紙入れから乗員表を出した。

 南野の名の横に、自分の三本線。

 出発時の確認印。

「連れてきた責任?」

「帰す仕事」

「患者だけじゃなく」

「乗員も」

「帰路班」

「普通の作業名」

「みんな普通って言う」

「普通は、守らないと特別になる」

 サナが眉を上げる。

「今の、誰に教わった」

「知らない」

「今、言った」

「記録しない」

 廃洗濯路の方向から、二人の隊員が戻る。

 一人は空の酸素固定具を持っている。

「車から外された固定帯。病院側の排水溝で発見」

「酸素瓶は」

「なし」

「担架車輪の跡」

「一人分。病院へ向かう」

「患者?」

「重さは分からない」

 澪は固定帯を触る。

 切られていない。

 留め具を正しく外してある。

 救難車の扱いを知る人間。

「車内手順を知ってる」

 隊員。

「見たことがあるだけでも外せる」

「内部の人間?」

「決めない」

「疑わない?」

「全員を同じに疑うと、知ってることが消える」

「では、何を」

「誰が、いつ、どの留め具を扱ったか」

「名前」

「行為」

 澪は四号車の回収班へ指示を出す。

「車体を動かす前に、床の泥を採る。白印を覆う。南野の席は触らない。酸素固定帯は別袋」

「復唱」

 隊員が繰り返す。

 澪は病院へ向く。

 搬入口の暗闇から、誰かがこちらを見ている気がした。

 見えない。

 だから、見えたふりをしない。

 午後六時三十七分。

 三号車の荷室を空にする。

 酸素瓶。

 毛布。

 折畳み担架。

 病院へ入れる前に、一つずつ数える。

 運び込む物の数を知らなければ、運び出された物の数も分からない。

 中立印は、門を開ける言葉ではなくなった。

 誰が、何を、どこまで運ぶのか。

 白い車は、暗い病院の前で、初めて自分の中身を名乗り始めた。