第267話 第十二章「白衣路」前編

四月二十七日 午前八時十六分

 道は、通れるから道になるのではない。

 通った後に、戻れる場所があるから道になる。

 風祭澪は、外環共同病院の搬入口へ白い布を三本敷いた。

 一本目は、搬入。

 二本目は、搬出。

 三本目は、保留。

 どれも旗ではない。

 床へ置かれ、人に踏まれるための布だ。

「保留の道が一番太い」

 帰路班の隊員が言った。

「人が増える」

「道なのに、進まない」

「進まないための道」

「矛盾です」

「復唱」

「進まないための道」

「受けた」

 澪は右耳を病院側へ向けなかった。

 聞こえにくい高音が多い。

 金属器具。

 細い呼び鈴。

 酸素流量計の警告。

 左耳を病院へ。

 右足を床の縁へ。

 音と振動を、別々に受ける。

 停電から九日。

 病院の電力は七割まで戻った。

 発電機の焼けた接点は交換され、借りた呼び線は旧配膳昇降機へ返された。

 昇降機はまだ動かない。

 線だけ戻っても、滑車の歯が欠けていた。

 壊れたものは、一つ直すと、隣の壊れ方が見える。

 人間関係も似ている。

 だから似ていないふりをしておいた方が、仕事は進む。

「一番車、患者二。歩行一、臥位一。受入先、北療養所。確認時刻、八時十一分」

「患者本人の選択」

「歩行、本人確認。臥位、意識あり。右手二回で同意」

「医療判断」

「時雨ミソラ、移送可。条件、酸素二リットル、十五分ごと確認」

「搬送判断」

「風祭澪、経路可。橋梁段差、回避」

「受入確認」

「北療養所、佐渡。空床二」

「復唱。患者二。選択あり。医療可。経路可。受入可」

「復唱一致」

 車輪が白い搬出布へ乗る。

 誰も《中立だから通れる》とは言わない。

 中立は、道路の舗装ではない。

 口で名乗れば、誰でも安全に通れる免許でもない。

 患者一人ごとに、選択、医療、経路、受入。

 四つが揃って、初めて車輪が動く。

「二番車」

 隊員。

「患者一。仮名《橋》。本人、移送希望。受入先、西回復室。受入確認あり」

「医療判断」

「待機」

「理由」

「時雨さん、血圧変動」

 《橋》本人が寝台から言った。

「動ける」

 声は弱いが、はっきりしている。

「私が決めた。行く」

 澪は寝台の横へしゃがんだ。

「本人選択、行く。受けた」

「なら動かせ」

「医療判断、待機」

「道は安全なんだろ」

「道は安全」

「じゃあ」

「身体が安全とは言ってない」

「同じだ」

「違う」

 ミソラが搬入口へ来る。

 左手に記録板。

 右手に赤い手袋。

 青い手袋は白衣の胸へ差してある。

「血圧、上が八十二。立位で六十四。今動けば、車内で意識を落とす可能性」

「ここにいるのが嫌だ」

 橋。

「理由を聞いていい?」

「暗い」

「今は灯りがある」

「消える」

「消えるかもしれない」

「また名前を間違えられる」

「それも、あり得る」

「なら、行く」

 ミソラは記録板へ何も書かない。

「澪。経路は」

「十七分。段差二。停止一。車内照明、本人が消せる」

「受入先の血圧対応」

「佐渡がいる。補液可」

「私の判断は、今は待機」

「いつ再確認」

「三十分後」

「本人は今を選んでる」

「知ってる」

「本人の選択を、医療が止める?」

「止める。三十分」

「それで悪化したら」

「私の判断」

「移送して悪化したら」

「澪の判断だけにはしない」

「なら」

「本人へ二つ出す」

 ミソラは橋へ向く。

「一、三十分待って再測定。二、今動く。ただし車内で意識を落とす可能性が高い。西回復室へ着く前に戻るかもしれない」

「戻る?」

 橋。

「戻す判断は誰」

 澪が答える。

「車内の医療担当。あなたが意識ありなら、あなたと確認」

「意識がなければ」

「出発前に、戻る条件を決める」

「三十分後なら、安全?」

 ミソラ。

「安全とは言わない。今より危険を減らせる可能性」

「言い方が嫌いだ」

「私も」

「じゃあ、もっといい言い方を」

「思いつかない」

 橋は目を閉じた。

「三十分」

「受けた」

「その間、ここじゃない場所」

「保留布の奥に、窓際区画」

「暗くしない?」

「あなたが選べる」

「薄く」

「薄く」

 寝台を三本目の白布へ動かす。

 澪とミソラは、互いへ謝らなかった。

 澪は移送できる道を見た。

 ミソラは移送してはいけない身体を見た。

 どちらかが相手の仕事を奪えば、決定は速くなる。

 速さは、責任を一人へ集める。

 だから二人は、面倒なまま並んだ。

 午前九時四十六分。

 家族待合の灯りは、以前より低かった。

 明るさを落としたのではない。

 天井灯を半分外し、壁際へ移した。

 顔は見える。

 窓からは見えにくい。

 凱は、家族の輪の中心に立っていなかった。

 壁際の長椅子。

 左膝を伸ばし、装具の金具を緩めている。

「王なんでしょう」

 女が言った。

 亡くなったカナメの娘だった。

 四月十九日、ミソラの頬を叩いた手には、まだ小さな擦り傷がある。

「昔は」

 凱。

「みんな、あなたの言うことを聞く」

「聞いた者もいた」

「なら、あの人が後回しになった理由を保証して」

「できない」

「どうして」

「私が決めていないから」

「逃げるの」

「逃げない。説明を聞く場所は作れる。記録を読む人間も集める。だが、私が《正しかった》と言えば、あなたの疑問を閉じることになる」

「正しくなかったと言えば」

「別の患者を救った判断まで、私が一言で潰す」

「王なら決めて」

「王だったから、決めない」

 女の目に怒りが戻る。

 怒りは、説明で消えるものではない。

 消えたら、たぶん説明ではなく麻酔だ。

「じゃあ、何ができるの」

 凱は立たないまま答えた。

「時刻を揃える。誰が何を見て、誰を先にし、何を知らなかったか。あなたが聞きたい順に並べる。途中で止められる。公開しない部分も選べる」

「私が?」

「あなたが」

「医者を罰せる?」

「私には決められない」

「何もできないじゃない」

「できないことを、できる顔で引き受けない」

 女は立ち上がった。

 凱の前へ来る。

 左膝の装具を見る。

「それ、痛い?」

「痛む」

「関係ない」

「そうだ」

「同情させようとした?」

「緩めていただけだ」

「紛らわしい」

「すまない」

 女は一度、泣きそうな顔をした。

 泣かなかった。

「説明、今日」

「場所を作る」

「ミソラも来る」

「本人へ確認する」

「逃げたら」

「逃げた事実を残す」

「それで終わり?」

「終わらせるかは、あなたが決める」

 凱は保証しなかった。

 代わりに、家族待合の机を一つ空けた。

 王の椅子ではない。

 説明を途中で止めても、誰にも取り上げられない席だった。

 午前十一時三分。

 病院の厨房では、小麦が粥へ塩を入れていた。

「一鍋、薄い」

 澪が言う。

「患者用」

「二鍋は」

「働いてる人用。濃い」

「三鍋」

「怒ってる家族用」

「何が違う」

「噛む物が入ってる」

「怒りは噛む?」

「人を噛むよりいい」

 小麦は木べらを澪へ向けた。

「食べる?」

「後」

「後は、いつ」

「搬送三台」

「時刻」

「十三時二十分」

「じゃあ十二時五十分に食べる」

「決めるな」

「低血糖で判断を間違えた人の搬送は、患者が嫌がる」

「私の血糖を知ってる?」

「顔」

「顔で血糖は測れない」

「厨房では測れる」

「医療者が怒る」

「ミソラには言わない」

 背後から、ミソラ。

「聞こえてる」

「高い音だった?」

 小麦。

「普通」

「澪には聞こえた?」

「左で」

「なら食べる」

「論理がない」

「粥はある」

 小麦は二人分を盛った。

 澪は受け取る。

 ミソラも受け取る。

 二人は同じ鍋から食べた。

 同じ判断をしたわけではない。

 同じ組織へ入ったわけでもない。

 同じ時刻に腹が減っただけだ。

「呼び方」

 小麦が白布の方を顎で示す。

「何」

 澪。

「外の人が、白衣路って言ってた」

「誰」

「荷車の人」

「病院名?」

「違う。白い服の人が、道を開けたり閉めたりするから」

 ミソラが首を振る。

「白衣だけで決めない」

「じゃあ、白衣路じゃない?」

「現場の呼び方なら、止めない」

「看板にする?」

「しない」

 澪。

「どうして」

「看板にすると、誰でも通れる道だと思う」

 ミソラ。

「でも、呼び名はいる」

 小麦。

「不便だから?」

 澪。

「人は、不便を短くするために名前を付ける。短くした後で、意味を忘れる」

「じゃあ毎回、意味を言う」

「長い」

「粥を食べながらなら、言える」

 小麦は三杯目を盛る。

「白衣路〈ホワイト・パス〉。患者ごとに開いて、患者ごとに閉じる道。所属は聞かない。本人確認はする。医療、経路、受入、本人選択の四つ」

 ミソラが言う。

「正式名にはしない」

「どうして」

「看板にすると、白い布の上なら誰でも通れる制度だと誤解される」

「今は現場の呼び方」

 小麦。

「厨房で一回」

 澪。

「市場は厨房から始まる」

「誰に教わった」

「私」

「短いな」

「鍋を持ってるから」

 三人は粥を食べた。

 結局、その日から、現場では《白衣路》と呼ばれた。

 規則の名前ではない。

 施設の名前でもない。

 床へ白布を置き、患者一人のために一度だけ開く仕事の呼び名だった。

 午後一時十二分。

 藍は病棟の窓際にいた。

 名取枝里という名前は、限定照合箱の中にだけ残っている。

 姉の志保が書いた確認文と、薬歴番号と、本人の署名。

 病棟では藍。

「移送」

 澪。

「しない」

 藍。

「受入先は二つ」

「知ってる」

「ここへ残る?」

「今は」

「再確認、いつ」

「三日後」

「誰と」

「ミソラ。志保は、聞くだけ」

「受けた」

 藍は古い薬箱を膝へ置いている。

 中には青い試験紙。

 シキの血液検査に使った残り。

 証拠として封印する分。

 医療者へ渡す分。

 藍自身が保管する分。

 三つへ分けられた。

「全部、渡さなくていい?」

 藍が訊く。

「私は搬送」

「逃げた」

「何から」

「答え」

「答えると、私が決める」

「みんな、そればっかり」

「流行ってる」

「嫌な流行」

「戻せる」

「何を」

「判断。三日後に」

 藍は試験紙の箱を閉じた。

「三日後」

「受けた」

 隣の処置室では、シキが座っている。

 左目の黒布。

 右腕の点滴は外れた。

 金属の首札は、透明袋の中。

 刃物と別。

 行為記録と別。

 医療記録と別。

 別々の箱へ入っている。

 シキという呼び名の期限は、今日の正午までだった。

 ミソラが本人へ訊く。

「治療継続。呼び名、続ける?」

「範囲」

「病院内。医療と説明」

「行為記録」

「記号で連結。公開時は再確認」

「期限」

「退院判断まで。毎日、正午に確認」

「続ける」

「受けた」

「外へ出る?」

「今は出ない」

「理由」

「歩ける。薬は残る。命令は残る。外へ出たら、どれに従うか分からない」

「病院へ残れば分かる?」

「治療は、選んだ」

「侵入行為の説明は」

「する。治療と別」

「いつ」

「午後。二十分」

「それ以上は」

「明日、選ぶ」

「受けた」

 澪は会話を聞き終え、処置室の戸を閉めた。

 シキが患者になったことは、侵入者でなくなったことではない。

 侵入者だったことは、患者でなくなる理由ではない。

 二つを同じ箱へ入れなかった。

 それだけで、病院は九日前より少し遅くなった。

 少しだけ、間違いを戻しやすくなった。

 午後二時三十四分。

 砂と針は、別々の部屋で説明を受けた。

 治療記録。

 侵入行為の記録。

 本人が選んだ呼び名の範囲。

 外部へ公開する情報。

 公開しない情報。

 砂は、砂という呼び名を行為記録まで使うと選んだ。

 針は、医療記録だけに限定した。

 同じ班にいた二人が、同じ選択をしなかった。

 無標班の命令規則は、病院の手続きにならなかった。

 南野は、盗まれた救難車の運転席へ戻った。

 頭部の縫合痕へ薄い包帯。

「運転できる?」

 澪。

「できる」

「医療判断」

「まだ聞いてない」

「聞いて」

「自分で分かる」

「医療判断」

「うるさい」

「復唱」

「医療判断を聞く」

「受けた」

 南野はミソラの診察を受け、運転不可になった。

「帰りは」

「助手席」

「屈辱だ」

「生きて帰る屈辱」

「澪、言い方がミソラに似てきた」

「嫌」

 背後でミソラが言う。

「私も」

 南野が笑うと、縫合部を押さえた。

「笑うのも禁止?」

「弱く」

「笑い方に強弱を命令するな」

「提案」

「似てる」

「嫌」

 二人の声が重なった。

 午後四時二分。

 説明席で、ミソラはカナメの娘と向き合った。

 凱は同じ机に座らない。

 少し離れた壁際。

 七瀬の録音機は、娘が選んだ範囲だけ動いている。

「録音、時刻と判断理由。私の声は入れる。母の名前は入れない」

 娘。

「受けました」

 七瀬。

「映像は」

「なし」

「受けました」

 ミソラは、紙を一枚出した。

 時刻。

 呼吸。

 脈。

 出血量。

 同時にいた患者。

 使えた器具。

 使えなかった器具。

 そして、待たせた時間。

「午前一時十九分。あなたのお母さんを、後にした」

「どうして」

「その時、戻せる可能性が高い二人を先にした」

「母は戻せないと思った?」

「可能性が低いと判断した」

「間違い」

「結果だけでは、判断の正誤は決められない」

「逃げる」

「でも、私の判断だった。待たせたことも、説明を後にしたことも」

「助けられなかった」

「助けられなかった」

「ごめんなさいは」

「言う。助けられなくて、ごめんなさい」

「謝れば終わる?」

「終わらない」

「次は助ける?」

「約束できない」

 娘の手が震える。

「何なら約束できるの」

「次も順位を決める。待たせる人へ、可能なら理由を言う。言えなかったら、後で記録する。所属で順位を変えない。間違いを隠さない」

「それだけ」

「それ以上を約束すると、誰かを先にする時に嘘になる」

 娘は紙を握った。

 破らない。

 受け取らないとも言わない。

「母の荷物」

「別室にある」

「一人で見たい」

「場所を作る」

「王はいらない」

 凱が頷いた。

「受けた」

「あなた、何でも受けたって言うのね」

「受け取れないものまで受け取ったふりをしないために」

「また格好つけた?」

 迅が廊下の外から顔を出す。

 娘が睨む。

「誰」

「通りすがり」

「出て」

「受けた」

 迅は消えた。

 娘は、ほんの少しだけ息を漏らした。

 笑いではないかもしれない。

 七瀬は録音を止めた。

 止めた時刻も記録した。

 午後五時二十八分。

 帰路班の三台が、搬入口へ並ぶ。

 澪は荷物を確認した。

 返却酸素瓶、十二。

 未返却、二。病院で使用中。

 破損担架、一。

 修理済み車輪、四。

 盗難車、回収済み。

 前照灯、左側だけ破損。

 隊員負傷、五。

 南野、運転不可。

 患者の数だけでなく、帰る側の損害も数える。

 救助した者は、無傷で物語の外へ出てはいけない。

 傷を勲章にする必要もない。

 ただ、次の仕事へ持っていく物として数える。

 ミソラが小さな紙片を持ってくる。

「連絡方法」

「何」

「病院から搬送依頼。普通の通信が使えない場合」

 紙には三つの組み合わせ。

 低い笛、一。

 床打ち、二。

 十五秒待つ。

「誰でも使える?」

「病院側は、サナと私。増やす時は連絡」

「命令変更」

「三者確認」

「高い笛は使わない」

「知ってる」

「私のため?」

「患者にも聞こえにくい人がいる」

「答え方が嫌」

「事実」

「少しくらい、私のためと言えば」

「嘘になる」

「全部じゃない」

 ミソラは考えた。

「澪のためでもある」

「受けた」

「笑うところ?」

「違う」

 二人は紙の端へ、それぞれ印を入れた。

 澪は三本の短い線。

 ミソラは赤と青の点。

 所属の契約ではない。

 常設組織の発足でもない。

 必要な時、必要な範囲だけ連絡するための紙。

「空白の旗へ入る?」

 タマキが訊いた。

 澪とミソラが同時に答える。

「入らない」

「早い」

 タマキ。

「仕事がある」

 澪。

「患者がいる」

 ミソラ。

「迅たち、人気ないね」

「お前も入ってるだろ」

 迅。

「私は毎回、自分で決めてる」

「俺も」

「それ、組織としてどうなの」

 真琴が言う。

「期限と担当があるなら成立します。永続的忠誠を求めない方が、今の空白の旗には合う」

「難しく言っただけで、みんな勝手ってこと?」

 タマキ。

「勝手に責任を持つことは、命令に従って責任を捨てることより難しい」

「名言にするには長い」

 迅。

「判例にするには短い」

 真琴。

「二人とも、帰る準備」

 凱が言った。

「命令?」

 迅。

「提案だ」

「弱いな」

「では、私だけ先に車へ行く」

 凱が立ち上がる。

 左膝が伸びるまで、一拍かかる。

 迅は何も言わず、車までの荷物を二つ持った。

 凱の腕を取らない。

 必要なら、本人が言える距離にいる。

 午後六時十一分。

 橋の血圧は、上が九十六まで戻った。

 三十分より長く待った。

「行く」

 橋。

「本人選択、行く」

 澪。

「医療判断、移送可」

 ミソラ。

「条件」

「水平。車内照明、本人調整。十分ごと血圧。意識低下時は本人が事前に選んだ通り病院へ戻す」

「経路可」

「受入確認あり」

 四つが揃う。

 寝台の車輪が、保留の白布から搬出の白布へ移る。

 橋が澪を見た。

「三十分じゃなかった」

「五時間五十五分」

「長い」

「長い」

「待たせた」

 ミソラ。

「謝る?」

 橋。

「待たせて、ごめん」

「正しかった?」

「分からない。今は動ける」

「それだけ?」

「それだけ」

 橋は目を閉じた。

「薄い灯り」

「受けた」

 隊員が車内灯へ布を一枚かける。

 寝台が車へ入る。

 白布は車輪の下で皺になる。

 誰かが伸ばそうとする。

 澪は止めた。

「そのまま」

「どうして」

「通った跡」

 道は、いつも真っ直ぐではない。

 誰かが迷い、止まり、戻り、また進んだ跡で皺になる。

 皺を消せば、きれいな道になる。

 誰がどこで止まったかは、見えなくなる。