第290話 第十一章「最後の一隊」後編

 受領台の灯りが見えた。

 タマキが入口に立っている。

 南野は椅子。

 七瀬は撮影機を回していない。

 真琴は三枚の名簿。

 由良は赤索を手へ持つが、能力を使っていない。

 凱は椅子に座り、左膝を冷やしている。

「迅!」

 タマキ。

「誰から!」

「西受入点と最後の七人!」

「誰へ!」

「青石台受領台!」

「何のため!」

「空欄を零にする!」

「戻すもの!」

「札と俺!」

「順番!」

「俺が先!」

 迅は敷居を越えた。

 南野が時刻を書く。

「十八時四十三分二十七秒。運搬担当、帰還」

 タマキが迅の右脇から油紙を取った。

 迅は自分で出そうとしない。

 痺れた指で落とす可能性を、最後に格好つけて増やさない。

 タマキが折り目を開く。

 墨は濡れていない。

「受領札、帰還」

 南野。

「内容」

 真琴が読む。

「西採石路、最後の七人。受領時刻十八時二十二分。本人確認済み。負傷なし。経路変更二、変更先受領済み。署名あり」

「西、合計」

「百七十三」

「北」

 ミソラ。

「六十四」

「南」

 由良。

「七十五」

「合計」

 タマキが指で足す。

「生存者総数」

「空欄」

 七瀬。

 真琴が一人ずつ照合する。

 映像ではなく、名簿。

 名簿だけではなく、受領札。

 受領札だけではなく、受入側の復唱。

 北、一から六十四。

 西、一から百七十三。

 南、一から七十五。

 途中で誰も急かさなかった。

 追手の足音が、住居列の外へ来ている。

 土地は取られる。

 机も。

 指揮所も。

 残した食料も。

 真琴は最後の欄へ線を引いた。

「空欄、零」

 最後の照合で、欠け四角の一人だけ、名が一致しなかった。

 西受入点の札には公開名。

 青石台の台帳には、照合名。

「別人?」

 南野。

「同一人物」

 迅。

「何で分かる」

「話した」

「それは証明にならない」

「本人だ」

「迅が信じたことと、名簿が確認したことは別です」

 真琴は受領札を裏返した。

 封緘欄がある。

 開けるには、本人が指定した二つの確認が必要だった。

 一つ目。

 橋の南側で、何を持っていたか。

 二つ目。

 受入点で、何を拒否したか。

 迅は答えを知っている。

「俺が言う?」

「言わない」

 七瀬。

「知っている人が答えると、本人確認が迅確認になる」

「じゃあ」

 西受入点へ低い通信をつなぐ。

 受領担当者が、本人の公開名を呼ぶ。

 声が返る。

『橋の南では、爆薬箱から外した空の布袋を持っていた』

「受入点で拒否したこと」

『顔の撮影。手元と到着時刻は許可した』

 封緘欄の二つの切り欠きと一致する。

 真琴は照合名を声に出さない。

「同一人物。本人到着確認済み。公開名は変更なし」

 迅が訊く。

「俺が知ってた答え、役に立たない?」

「追手に嘘を言われた時、本人を疑わずに済んだ」

 七瀬。

「記録では?」

「立会者。ただし確認者ではない」

「弱い」

「範囲が正しい」

「格好は」

「受領されません」

 通信の向こうから、公開名の人が笑った。

『運んでくれてありがとう』

 迅は返事をするまで一拍かかった。

「帰ったなら、いい」

『帰ったとは言ってない。着いた』

「今日、それも人気」

『正しいから?』

「怖いから」

『同じだ』

 通信が切れる。

 紙の名と、人が自分で使う名は同じではなかった。

 それでも、空欄へ勝手な名前を埋めずに一人へ戻せた。

 真壁梓が、撤退完了欄へ署名した。

 時刻、十八時四十八分。

「発表」

 凱が言った。

「誰が」

 真壁。

「あなたが」

「王命ではなく?」

「現地指揮の完了確認」

 真壁は拡声器を取った。

「青石台段階撤退。対象生存者全員。北六十四、西百七十三、南七十五。全員、生存受領。空欄零。拠点は明け渡す」

 外から、追撃側の声がする。

「降伏か!」

 真壁は答えなかった。

 降伏の発表ではない。

 凱も答えない。

 迅は、七歩を完成させなかった右足を見た。

 土地は向こうに渡った。

 捕虜は、いない。

「札を保管」

 タマキが言った。

「俺も?」

 迅。

「迅は外」

「さっき戻すって」

「戻ったから、次は退く」

「誰の命令」

「受領台を閉める人」

「誰」

 南野が椅子から立たず、閉鎖時刻を書いた。

「俺だ」

「運転しないのに」

「受領台は運転席じゃない」

「受けた」

「誰が何を」

「竜胆迅が、南野の受領台閉鎖に従って退く」

「長い」

「戻せる」

 机の上には、三百十二人ぶんの重さを持たない紙が残った。

 軽いから、持って帰れた。