第322話 第三章「元能力者」後編

 番号は二十三。

「次」

 イオ。

「はい、二十三番選手、入場です」

「番号で呼ばれるの、好き?」

「賭率なら」

「名前」

「鐘巻十夜。職業、最後」

「職業欄に入らない」

「地下王者」

「収入」

「前借り」

「住居」

「試合場の上」

「医療」

「延長中」

 十夜は笑った。

 胸の札には《終了 七月九日 零時》。懐中時計は三分進んでいる。

「相談内容」

「王様の公開判定へ、うちの閉店興行を付けたい」

「ここは興行窓口じゃない」

「元能力者の翌日を作る相談なんだろ」

「あなたは元?」

「零時までは現役」

「零時一分は」

 十夜のえくぼが消えた。

「ない予定」

「予定として受理しない」

「死ぬと言ってるわけじゃない」

「生きる予定を言ってない」

「同じじゃない?」

「違う」

 イオは新しい紙を出した。

《七月九日 零時一分》

 その下へ三つの欄を書く。

《住居》

《仕事》

《医療》

「埋めて」

「試合契約を持ってきた」

「先に翌日」

「客を待たせる」

「まだ来てない」

「待つ予定の客がいる」

「本人より先に客席を作るな」

 十夜は懐中時計を逆回しした。

 針は戻らない。

 壊れる音だけがする。

「水科イオ」

「何」

「おまえ、能力を失ってから、面白くなったって言われる?」

「言った人間の勤務表を破った」

「怖いねえ」

「次の質問。零時一分、どこにいる」

 十夜は答えなかった。

 階段の上で、凱が立っている。

 その隣に迅。

 十夜は二人を見た。

「ほら、次の試合が来た」

「相談は終わってない」

「最後に続きはない」

「だから、続ける」

 イオは紙を十夜へ渡した。

「零時一分の欄。空白のまま持っていけ」

「空白は売れない」

「売らないものもある」

 十夜は紙を折らなかった。

 胸の札と懐中時計の間へ、平らなまま差した。

 凱へ向き直る。

「契約の話をしよう、二十歳の王」

「王と呼ぶな」

「じゃあ、二十歳」

「名前で呼べ」

「獅堂凱。七月八日、旧王環。三部構成。指揮、俺、迅」

「第二部のおまえは誰と戦う」

「登録選手。名前は当日まで売らない」

「本人の同意は」

「ある」

「停止条件」

「ある」

「守るか」

 十夜は笑った。

「それを聞くのは、選手へ失礼だ」

「守らないという答えだな」

 迅。

「実況席、早い断定です」

「足が出口を向いてる」

「逃げ足の選手に言われたくない」

 十夜は契約書を開いた。

 三部のうち、第三部だけ勝敗欄が大きい。

 中止欄は、紙の裏にあった。

 真琴が見れば怒る。

 イオは既に怒っていた。

「表へ出して」

「何を」

「中止」

「縁起が悪い」

「最後は縁起がいい?」

 十夜は返事をしなかった。

 凱は契約書を受け取る。

「読む」

「今?」

「全部」

「長いよ」

「終わる話ほど、長く読む」

 凱は階段へ座った。

 王は座らない。

 獅堂凱は、紙を一頁目から読み始めた。

 十夜は零時一分の空欄を胸へ差したまま、隣に座った。