第326話 第五章「王の誕生日会」後編

 食事代を払い、領収書を受け取る。

 凱の前へ、一冊の相談表を置いた。

 名前は番号へ置き換えてある。

 公開同意のある職種と賃金だけ。

 元英雄はいない。

 洗濯工。

 溶接工。

 夜警。

 配達補助。

 病院清掃。

 織物検査。

 調理。

 能力喪失前の賃金。

 後の賃金。

 住居継続。

 医療。

 本人が戻りたい仕事。

「これを読めば、俺が代表できないと分かる?」

 凱。

「読まなくても代表じゃない」

「では、なぜ置く」

「代表しないで、決める時に使える」

「何を」

「能力欄を消した後の仕事」

 イオは腕の装具を確かめる。

「十七時。私は帰る」

「再起動業者は」

「説明書を持ってこなかった」

「追わないのか」

「今日の勤務は終わり」

「証拠が消える」

「一人で追うと、また私が必要になる」

「誰へ渡す」

「相談者二人が幟の記録を取った。審査局へ照会する人、部品工場へ聞く人。私は明日、結果を受ける」

「遅い」

「あなたより」

 凱の眉が上がる。

 イオは笑う。

「冗談。十七時零分」

 出口へ向かう。

 左右違う靴が、別の音を出す。

 十夜が廊下の壁にもたれていた。

「零時一分の表、まだ空白」

 イオ。

「誕生日会へ来たら、明日の予定になる?」

「今日の予定」

「厳しい」

「明日、診察予約を入れて」

「試合前に病人になる」

「既に患者」

「選手だよ」

「両方書く欄、作った」

 十夜は胸の札を指で弾いた。

「俺も、王様みたいに全部公開しようかな」

「心電図を客席へ?」

「盛り上がる」

「死ぬ音を拍手へ渡すな」

 十夜の笑いが、ほんの少し遅れた。

 イオは見なかったふりをしなかった。

「七月九日、零時一分。診察室」

「予約?」

「提案」

「断ったら」

「零時二分にもう一度聞く」

「しつこい」

「続くから」

 イオは帰った。

 最後に残ったのは、凱、迅の空席、七瀬、真琴、タマキ、小麦だった。

 乱馬とカナタは地上の舞台確認へ。

 豪は犬舎の夜餌へ。

 十夜はどこかの閉店間際へ。

 小麦が残った皿を数える。

「十四人。食べた十四。残り、煮込み三人前」

「誰へ」

 タマキ。

「夜勤」

「名前」

「受け取り時に」

 小麦は、自分が買った豆粥の空容器を洗っていた。

 店名は書いていない。

 値段だけ、底へ《六十》と墨がある。

「それ、どこの」

 タマキ。

「外」

「誰から」

「店」

「誰の」

「まだ言わない」

「目的」

「味を覚える」

 小麦は容器を拭いた。

 凱が見ている。

「会いたい人か」

「凱は妹と話した」

「話を変えるな」

「変えた」

「なぜ」

「今日は言わない」

 凱は追わなかった。

 他人の言葉を待つことも、命令しない練習になる。

 真琴が精算表を閉じる。

「誕生日会、終了時刻二十時十四分」

「四日遅れた」

 タマキ。

「終了は今日です」

「凱、二十歳になった?」

「一日に、なった」

「今日、何になった」

 凱は答えを探した。

 王。

 元王。

 能力判定の申請者。

 再戦を求めた人間。

 妹へ理由を返した兄。

 左右の違う靴を贈られた男。

「分からない」

 言った。

 タマキは頷いた。

「じゃあ、そのまま届ける」

「どこへ」

「七月八日」

「日付は宛先ではない」

「イオに言って」

 凱は笑った。

 今度は、咳に聞こえなかった。