第366話 第一章「すべての角に目」後編

 七瀬は固定台の撮影機を受信端末へ向けた。

「条件は」

『あなたが共同運用者として登録すること。監視の欠陥を直す側へ来る。外から正義を投げない』

「閲覧権の範囲」

『全部』

「保存期限」

『あなたが決める』

「被写体の同意」

『街路で、毎回取るのか』

「取れない場所を、取ってよい場所とは呼びません」

『では、犯罪者へ撮影拒否札を配る?』

「二択を作らないでください」

『あなたは十二ロットを五つに分けた。得意だろう』

「記憶は本人の物です。街路は誰の物ですか」

『見ている人の物だ』

「それが答えですか」

『提案だ』

「主語を戻してください」

 真琴が言う。

 薄墨の声が、一度止まった。

『俺が、見ている人の物にした』

 受信端末の黒い画面へ、白い点が一つ現れた。

 点が増える。

 九十六。

 街の監視節点だった。

『七瀬。あなたは全部撮れば、見る側が決めると言っていた』

「過去形です」

『いつ変えた』

「変わった時刻を一つにはできません」

『便利だな。編集者みたいだ』

「編集を侮辱語にしないでください」

『では共同運用へ。切らずに、全部見る』

 九十六の白点が、同時に動いた。

 作業室の窓の外。

 交差点。

 屋根。

 看板。

 見えないレンズが、同じ方向へ向く。

 零番街から東部監視区まで、九十六の目が七瀬を探した。

 撮影機のファインダーの中で、七瀬の顔は映らない。

 撮る側だからだ。

 窓ガラスには映っていた。

 薄い反射の中で、九十六の赤い点が、彼女の肩の高さへ並んだ。

『見られる側へようこそ』

 七瀬はクランクから手を離さなかった。

「午前十時十二分」

 時刻を言う。

「提案を受領しました。回答は保留します」

『いつまで』

「あなたが、誰を何のために見たか出すまで」

『全部、見せると言った』

「映像ではありません」

 七瀬は窓に映る自分を見る。

「見る人を見せてください」

 九十六の赤い点は、瞬きをしなかった。