第400話 第六章「酸素の残量」後編

 残る十二人へ、地上から選択条件をもう一度送った。

 三口の受入れは、数字だけなら合計四十三を超えている。

 東。

 あと三人。

 西。

 あと四人。

 中央。

 あと五人。

 残る十二と一致する。

「きれい」

 施設職員が言った。

 ミソラが首を横へ振る。

「人の希望まで三、四、五とは限らない」

「能力で振り分ければ」

「何を基準に」

「医療、家族、保留」

「人が選ぶ前に、分類を決める?」

「時間がない」

 百舌が透明壁へ書く。

《東三、西四、中央五》

《容量一致》

 タマキは、三本の索へ別々の信号を送った。

《東希望》

《西希望》

《中央希望》

《不明》

 返答は、容量のようにきれいではない。

 東二。

 西三。

 中央四。

 不明三。

「東一、西一、中央一が余る」

 施設職員。

「不明三を入れれば一致」

「不明を空きへ入れるな」

 タマキ。

「三人とも、どこかへ行かなければ」

「だから訊く」

「何を」

「何が分からないか」

 不明一人目。

 返答。

《東の照会範囲》

 東の受入条件を短くして送り返す。

《呼吸・循環・薬剤のみ》

《家族・能力・懲戒は開かない》

 返答。

《東》

 東三。

 不明二人目。

《西で家族に会わない選択》

 西の条件。

《面会拒否可》

《共同宿舎可》

《家族名を公衆板へ出さない》

 返答。

《西》

 西四。

 不明三人目。

 返答がない。

 もう一度。

 ない。

「中央」

 施設職員。

「空き一」

「返答なし」

「中央は保留」

「保留を選んだのと、返答できないのは違う」

 ミソラが、その人の潜水表を見る。

 圧力管理室。

 呼吸は安定。

 右眉裂傷。

 打鍵器を三回使用。

「打鍵器故障かもしれない」

 轟が水中設備へ確認を送る。

 返答。

《打鍵器 電池切れ》

 本人の不明ではない。

 道具が声を失った。

「三口の札を直接持っていく」

「時間」

「二分」

「その二分で残りが」

「一分になる可能性」

 百舌。

《中央へ医療代行》

 ミソラが首を横へ振る。

「呼吸は安定。代行の条件ではない」

《伝達不能》

「伝達できる潜水員を送る」

《危険増》

「本人を空き枠へ入れる危険もある」

 タマキは、真鍮の輪を見る。

 四分で能力が出れば、札を持っていく方向が分かるかもしれない。

 でも、送り主の選択がまだない。

 選択を聞くための道へ、選択を条件とする能力は使えない。

「能力が出ても、最初の札は普通に運ぶ」

 イオが言う。

「そう」

「それでも欲しい?」

「欲しい」

「役に立たない場面から始まるかもしれない」

「配達も、受取人が留守なら役に立たない」

「返す?」

「返送する」

「能力も」

「出なかったら、出なかったって返す」

 札を持った施設潜水員が水へ入る。

 二分四十秒後。

 返答。

《中央》

《呼称 未定》

《目的 決めない》

 中央五。

 東三。

 西四。

 中央五。

 容量と一致した。

 偶然。

 施設職員が安堵する。

「きれいになった」

 タマキが言う。

「最初からきれいだったことにしないで」

「最終結果は同じ」

「途中で、誰が何を知らなかったかが違う」

「それを全部残す?」

「残す」

「紙が増える」

「濡れる」

 小麦が言った。

 百舌が透明壁の向こうで、ほんの少し口元を動かした。

 笑ったのかもしれない。

 確認はしない。

 今確認すべきは、十二人の行先だった。

 真鍮の輪は、扉のように開いていた。

 開いている扉ほど、行先を隠すことがある。