第404話 第八章「封緘便〈シールド・ルート〉」後編

 休止十四分目に、西口の火災警報は誤作動と判明した。

 仕切りは設置されたままにした。

 誤作動だったから、面会拒否の必要まで消えるわけではない。

 タマキは受領票へ書く。

《火災なし》

《受入条件変更あり》

《本人は変更後条件へ同意》

《能力経路は使用せず、既存索で搬送》

 初発現の記録に、成功だけを並べない。

 出た。

 使えた。

 使わなかった。

 三つは別の行だった。

 次の搬送対象が来る。

 意識なし。

 低体温。

 呼吸浅い。

 東医療口をミソラが推奨。

 事前記録なし。

 本人の呼称不明。

 受取側は受入れ済み。

 目的は救命処置。

 送り主本人の選択がない。

 タマキは札を持つ。

 封を閉じる。

 胸に何も起きない。

「出ない」

「条件不足」

 巴。

「何が」

「送り主本人の選択」

「医療代行では」

「タマキの条件には含まれていません」

「じゃあ運べない?」

「普通に運ぶ」

 タマキは立つ。

「休止」

 ミソラ。

「僕じゃなくていい」

 迅と施設潜水員が担架を取る。

 タマキの能力が働かない人を、能力者以外が運ぶ。

 出ないことが見捨てる理由にならない。

 意識のない一人は東へ。

 その次。

 西を選んだ二人。

 一人は家族面会を希望。

 もう一人は家族口から共同宿舎へ行き、面会は拒否。

 タマキはまだ休止中。

 百舌と七瀬が別々の索で運ぶ。

 七瀬は撮影機を持たない。

 百舌は能力を使わない。

 同じ西口へ行く二人が、違う目的を持つ札を胸へ付けている。

 意識のない一人を東へ運ぶ班は、洗濯索を使わなかった。

 タマキの能力が示した経路は、直径七十センチ。

 自力で身体を縮められる人なら通れる。

 担架は通らない。

 意識のない身体を縦へ折ることもできない。

「分解担架」

 轟が提案する。

 布と二本の棒へ分け、通過後に組み直す。

 ミソラが首を横へ振る。

「途中で呼吸器を安定させられない」

「では旧寮回り」

「四分増える」

「東口の残圧」

「足りる」

「本人の体温」

「足りない可能性」

「保温板」

 小麦の薄い金属板を一枚、担架の下へ。

 直接当てない。

 布を二枚挟む。

 普通の長い道を、普通ではないほど準備して通る。

 迅が先。

 施設潜水員が担架前。

 百舌が後。

 タマキは地上に残る。

 胸へ封の感覚はない。

 送り主本人の選択がないからだ。

「能力が出ない」

 施設職員がもう一度言う。

「出ない人は遅い」

「道が違う」

 タマキ。

「能力があれば、担架用の道を」

「作らない」

「別の能力なら」

「僕の能力の話に、欲しい能力を足さないで」

 施設職員は黙る。

 東索が動く。

 旧寮回り。

 一分。

 二分。

 三分二十秒。

 停止信号。

「何」

 凱。

 返答。

《保温板ずれ》

 担架の下で、金属板が一枚横へ滑った。

 身体へ直接触れる位置。

 班は止まる。

 急げば、低温熱傷になる。

 百舌が板を抜く。

 布を巻き直す。

 一分失う。

 東到着、五分四十九秒。

 能力経路より長い。

 本人は生きている。

 到着後、保温板の使用失敗も記録する。

 道が届いたことだけではなく、途中で止めたことも、配達の一部だった。

 西の二人は、同じ口へ出るが、同じ索にはしなかった。

 一人目。

 家族面会を希望。

 二人目。

 家族面会を拒否し、共同宿舎。

 西の受入係が、間違いを避けるため二人の札へ色を付けようとする。

 赤。

 青。

「色は水中で変わる」

 タマキ。

「地上で」

「地上でも、赤が家族、青が拒否って覚えられる」

「便利」

「本人が色を嫌ったら」

「では形」

 一人目は屋根札の上へ、小さな結び目。

 二人目は屋根札の下へ、切れ目。

「拒否を切れ目にする?」

 七瀬。

「欠けた人みたいに見える」

 受入係は手を止める。

「何なら」

 本人へ訊く。

 一人目は丸い石を選ぶ。

 二人目は四角い木片。

 家族か、拒否かを形にしない。

 本人が自分の目印を選ぶ。

 丸い石。

 四角い木片。

 西口では、受入係が同じ二つを持つ。

 受取人確認。

 二人は順番に出る。

 丸い石の人。

 受入係が丸い石を見せる。

 本人は家族面会をもう一度選ぶ。

 四角い木片の人。

 受入係が家族名を呼びかけそうになる。

 本人が木片で机を一度叩く。

 止まる。

 共同宿舎係へ引き渡す。

 同じ西口。

 一人は会う。

 一人は会わない。

 受入係は、間違えかけたことを記録する。

 本人が止めたから問題なし、にはしない。

 中央の一人は、《未定》とは別の人だった。

 呼称《ヒダリ》

 左手しか動かない。

 円札を左手へ固定している。

 タマキは封緘札を作ろうとする。

 《ヒダリ》は首を横へ振る。

 能力を使わない。

「なぜ」

 タマキ。

 《ヒダリ》は左手で、輪索を指す。

 既に知っている。

 施設で保守作業をしていた。

 中央経路の結び目を、自分で覚えている。

「僕の道、いらない?」

 頷く。

「僕も行く?」

 首を横。

 自分で行ける。

 施設潜水員一人だけを後ろへ。

 タマキは少し腹が立つ。

 能力が出たばかりで、使わないと言われた。

 その腹立ちを、危険評価へ混ぜない。

「受取人は」

 中央から受入れ。

「目的」

 呼称だけで保留。

「道」

 本人が知っている。

 タマキは封を閉じない。

「料金」

 《ヒダリ》が左手で、硬貨を投げる動作。

「何も運んでない」

 地図確認と受取確認。

 《ヒダリ》が二本指。

「半額?」

 頷く。

「正規料金の半分」

 頷く。

「けち」

 《ヒダリ》は左手で、タマキの胸を一度押す。

 同じ言葉を返したらしい。

 《ヒダリ》は自分の知る道で中央へ着く。

 能力者が知らない道を、被救助者が知っている。

 救助される人は、地図の空白ではない。

 午後二時五十八分。

 四人が追加で水上へ出た。

 東一。

 西二。

 中央一。

 累計。

 東十五。

 西十二。

 中央八。

 三十五人。

 残り八人。

 タマキは潜水表の自分の欄を見る。

《誓痕 初発現》

 その横に、ミソラが書いた。

《休止中》

 能力の名より、今は休む必要の方が大きく書かれている。

 タマキは、少し安心した。

 少しだけ、腹も立った。

「字が大きい」

「重要」

 ミソラ。

「能力より?」

「今は」

「今だけ?」

「次の診察まで」

 タマキは十五分を待った。

 待つことも、搬送の一部だった。