第429話 第九章「観客が舞台に上がる」前編
午後一時四十三分
観覧席の人間は、事故の外にいる。
そう決めたのは、柵だった。
透明障壁。
黒い境界。
入場券。
観客席番号。
身体は近い。
役割は遠い。
火群七瀬は、観覧席へ現在映像を戻すため、予備回線を探した。
主回線は八城が切った。
副回線は事前映像へ固定されている。
非常放送は、制御室の二鍵。
「手回し撮影機の音声を、場内拡声へ直結できます」
見学者の一人が、障壁越しに叫んだ。
五十代ほど。
灰色の作業帽。
入場券を胸へつけている。
「職種」
七瀬。
「元劇場設備。今は集合住宅の音響保守」
「資格」
「低圧、場内拡声、避難誘導設備。証票は鞄」
「入れない」
警備員が言う。
「観客は客席に留まってください」
「現在の拡声が事前音源へ固定されてる。非常回線、死んでるぞ」
「技術班が対応しています」
「何分」
「確認中です」
「水は確認を待たない」
別の見学者が立つ。
「介護施設で移乗をしています。担架の人手が足りていません」
その隣。
「私は給水ポンプの修理」
「私は看護補助」
「索具の検査員です」
「子どもの集団誘導」
「読み上げならできます」
観客が、自分の技能を言い始める。
拍手ではない。
賛成票でもない。
作業申告。
七瀬は撮影機を観覧席へ向けた。
「午後一時四十四分二十秒。見学者から技能申告。現時点で、設備四、医療・介助七、結索三、運搬六、読み上げ五。重複あり。本人確認未了」
「撮影を止めてください」
警備。
「顔は映していない」
「混乱を誘発します」
「混乱はもうある」
「観客を現場へ入れることはできません」
「理由」
「保険、責任、誓痕停止への同意、装備、名簿」
「条件を作る」
カナタが来た。
右足を引きずらないようにして、逆に歩幅が不自然になっている。
「境界を開けます」
「演出担当に権限はありません」
「安全監視申立人として、外部技能の受入れを提案します」
「提案は却下します」
「却下した氏名と時刻」
七瀬が言う。
警備員の顎が動く。
「私個人では決定できません」
「では決定者」
「八城試験官」
通話を開く。
レムの声。
「観客の入区は認めません。未訓練者が増えれば事故が拡大します」
「訓練済みの技能者がいる」
カナタ。
「本演習の手順を訓練していません」
「今の事故は手順外」
「だからこそ、既存の統制が必要です」
「既存の統制で水が止まっていない」
「技術班が対応中です」
「誰」
「現在、確認を」
「名前」
「個人名を公開する必要はありません」
「参加者の名は役へ変えたのに、決定者の名は隠す?」
「論点を混ぜています」
「現場は混ざっています」
カナタは障壁の手動解錠箱を見る。
二鍵。
警備側。
演出・安全側。
カナタの鍵は、演出中止後も回収されていない。
持っている。
「私の鍵だけでは開きません」
警備員が言う。
「もう一つは」
「警備責任者」
「あなた?」
「はい」
「技能を申告して」
「何ですか」
「この境界を守る技能。事故下で誰を入れ、誰を止めるか」
「規則に従うことです」
「規則外の事故」
「判断権限が」
「あなたが鍵を持っている」
「持っていることと、決めることは別です」
「その言葉、正しい」
カナタは鍵から手を離した。
「だから、一人で開けない。条件を一緒に作る」
七瀬が白板を持ってくる。
《入区条件》
《本人の希望》
《現在必要な技能》
《停止区画への同意》
《身体制限の申告》
《担当範囲》
《退出条件》
《入区後も拒否可》
医療係が追加する。
《負傷時の治療同意》
《薬・植込み機器》
轟が内部から追加する。
《工具持込検査》
《荷重判断を単独でしない》
百舌が手話で追加する。
《声以外の連絡方法》
タマキ。
《誰へ届けるか》
「目的?」
七瀬。
《何のため入るか》
カナタが最後に書く。
《観客でなくなることへ同意する必要はない》
警備員が読む。
「どういう意味です」
「作業へ参加しても、運営へ賛成したことにしない」
「入区は参加です」
「事故対応への参加。演習認証への同意ではない」
警備員は、鍵を見た。
自分が開ければ、責任が残る。
開けなくても、残る。
「申告者を一人ずつ確認します」
「受領」
カナタ。
観客席の一角へ、仮受付が作られる。
最初の二十七人が前へ出る。
設備技師。
介助職。
索具検査。
運搬。
読み上げ。
調理。
子ども誘導。
作業灯。
雨具修理。
そのうち、現在必要な技能は十九人。
三人は身体制限で入らない。
二人は停止区画へ入ることを拒否。
三人は観覧席側の誘導へ残る。
拒否した者の名も消さない。
理由は求めない。
午後一時五十三分。
二鍵が回る。
境界が、一・二メートル開く。
「一人ずつ」
警備員。
「技能札を見せる。工具は前。役名は不要」
見学者が舞台へ入る。
祝祭劇の時は、観客が退出して劇を終えた。
今回は、必要な観客が舞台へ上がる。
観客であったことを捨てるのではない。
見ていた責任と、いま持つ技能を両方持ってくる。
最初の設備技師が、七瀬の撮影機へ近づく。
「音声端子」
「ここ」
「旧式だな」
「褒め言葉?」
「直せる」
「最高」
予備線を非常拡声へつなぐ。
自動音楽の線を物理的に抜く。
英雄帰還の曲が、途中で切れた。
場内に、水と呼吸の音が戻る。
七瀬がマイクへ言う。
「午後一時五十六分。現在の事故放送へ切替。これは黒雨当日の再現映像ではありません。現在、南は水深四十六センチ。西階段閉塞。役名ではなく技能札で移動しています」
観覧席がざわめく。
歓声が消える。
今まで演出だと思っていた人が、立ち上がる。
出口へ向かう者。
座る者。
家族の名を呼ぶ者。
手伝いを申告する者。
全員を同じにしない。
レムが判定席から走ってきた。
境界外。
能力が使える。
「閉門してください」
「十九人、確認済み」
警備員。
「私の許可はありません」
「現場条件へ署名しました」
「あなたに変更権限は」
「鍵を持つ責任はあります」
警備員の声が震えている。
レムは手を伸ばす。
「鍵を」
「渡しません」
「業務命令です」
「現在の指揮系統が事故を演習として扱ったため、単独命令を停止します」
「あなたは規則を破っています」
「記録してください」
七瀬は記録する。
レムの背後から、試験側の警備二人が来る。
鍵を取り戻す。
境界を閉じる。
目的は秩序回復。
悪意ではない。
しかし、十九人はもう区画へ入っている。
閉じれば、外の医療物資が止まる。
「通す」
カナタが境界前へ立つ。
「退いてください」
「技能申告。放送。受身。右足首炎症。長い説明」
「笑っている場合ではありません」
「笑っていません」
警備員の一人がカナタの肩へ手をかける。
カナタは殺陣の動きで半歩ずれる。
相手の手を払わない。
掴ませたまま、落ちる方向だけ変える。
警備員の重心が前へ出る。
カナタの右足首が痛む。
踏ん張らず、膝を折る。
二人とも床へ下りる。
犬飼豪の受身。
息を吐く。
頭を守る。
相手を下にしない。
「暴力です!」
もう一人の警備。
「転倒です」
カナタ。
「故意でしょう」
「落下を防ぎました」
「道を塞いでいる」
「はい」
レムは二人の動きを見る。
型通りが働く。
既知の殺陣。
肩を掴む。
半歩ずれる。
膝を折る。
回転して床へ。
次の三動作が、レムには見える。
カナタが起きる。
右足を庇う。
左へ逃がす。
レムは先に左へ入った。
カナタは、起きなかった。
「何」
床に座ったまま言う。
「右足、痛いので休む」
レムの予測が一つ外れる。
迅が境界へ来る。
レムは彼の七歩を知っている。
第一歩、踵を擦る。
第二歩、肩を見る。
第三歩、間合いを切る。
迅は踵を擦らない。
「技能」
七瀬が訊く。
「鍵を守る人の前に立つ」
「組技は」
「使うかも」
「七歩」
「使えない」
迅はレムではなく、警備員へ言う。
「鍵を取るなら、本人へ目的を言え」
「閉門です」
「誰を守る」
「全参加者」
「物資止まる」
「無秩序な入区を防ぐ」
「いま入る人、確認済み」
「八城試験官の許可がない」
「許可が人を守る?」
「制度が守る」
「今、守ってる人の名」
警備員は答えられない。
レムが一歩出る。
「私が責任を負います」
「範囲」
凱の声。
「入区管理と再演継続」
「事故の負傷も?」
「運営責任と共同です」
「主語が増えた」
「あなたは、指揮を分散しすぎて誰も責任を負わない状態を作っています」
「だから技能札に名を書いた」
「その場限りです」
「今は、その場だ」
レムは境界を越えようとした。
外では《型通り》が働く。
中へ入れば消える。
境界の線上で、予測と現実が切り替わる。
彼女は警備員の次の動きを読む。
右手で鍵。
左足を引く。
肩をカナタへ向ける。
その三手先へ、自分の身体を置く。
だが警備員は、役を変えた。
「鍵を守ります」
鍵を胸へ抱えず、床の受渡箱へ入れる。
カナタも起きない。
迅も七歩を取らない。
凱は命令せず、通路幅を測る。
観客だった設備技師は、工具箱を先に滑らせる。
目的。
役割。
身体条件。
道具配置。
全部が変わる。
《型通り》の三手先が、薄くなる。
レムは自分で埋めようとした。
右足を境界内へ置く。
能力が消える。
左足で方向を変える。
警備員の肩を避ける。
床の水を踏む。
右足が止まる。
上半身だけが左へ回る。
膝が内へ入った。
乾いた音は、小さかった。
ぱつ。
レムの顔から、全ての表情が消える。
右膝が抜ける。
身体が落ちる。
迅が腕を取ろうとする。
「膝、触るな!」
観客席から入った介助職が叫ぶ。
カナタが床のまま、レムの頭側へ回る。
迅は肩と腰を支える。
右脚を動かさない。
「八城」
凱。
「聞こえるか」
「聞こえます」
レムの声は平らだ。
「痛み」
「八」
「足先」
「感覚あり」
「動かさない」
「私は、立てます」
「立たない」
「現場統制が」
「別の者へ」
「私が」
「技能申告」
凱の声は命令ではない。
しかし拒否を許す余白が、短い。
レムは息を吸う。
「再演手順。動作判定。群衆動線。右脚、支持不能」
「受領」
医療係が膝を固定する。
簡易副木。
膝伸展位。
脈。
感覚。
腫脹。
「前十字靱帯損傷疑い。搬送します」
「演習記録を」
レム。
「記録は残る」
七瀬。
「事故による離脱として処理しないでください」
「どう処理する」
「試験官として――」
「現在は負傷者。試験官であることも消さない。両方」
「再演を妨害した結果と書かれる」
「誰が」
「運営が」
「あなたの言葉も残す」
「負傷を失敗の証拠にしないで」
「しない」
「型を外れた罰にも」
「しない」
「自由になった象徴にも」
七瀬は、はっきり答えた。
「しない。右膝の負傷。発生動作。境界。床の水。靴。予測条件の変化。診断は医療者。意味は足さない」
レムの目が一度閉じる。
「受領」
担架が来る。
英雄役ではない三人が持つ。
観客だった介助職が脚を固定する。
十夜が脈を確認するが、胸へ負荷をかけない。
カナタは右足首を庇いながら、床から離れる。
レムは境界を越えて外へ運ばれる。
《型通り》が戻る場所へ。
しかし、右膝は戻らない。
能力は、靱帯をつなげない。
境界の鍵は、受渡箱に残る。
警備員が取り出し、もう一度開位置へ回した。
「技能確認済みの者を通します。名簿と終了時刻を残す」
カナタ。
「あなたが決めた?」
「私が鍵を回した。条件は共同で作った」
「受領」
観客席から、次の作業者が舞台へ上がる。
拍手はない。
一人ずつ、自分の技能札を見せる。
水の中へ入る前に、靴紐を結び直す。
七瀬は現在時刻を言う。
「午後二時七分。八城レム、右膝負傷により医療搬送。入区者、累計二十三。観客席側へ残る技能者、十一。境界は開放継続。演目は再開していない」
事前映像の英雄は、まだ兜を掲げたまま止まっている。
現場では、名もない作業者が工具箱を受け取った。
レムを担架へ移すまで、三分四十二秒かかった。
速いか遅いかは、後で比較できる。
今は、動かした順番を残す。
頭部。
肩。
骨盤。
右脚は固定。
足先の色と感覚。
「右膝、触らない」
介助職。
「固定帯を通す時だけ、大腿と下腿を別に支える」
迅は右側へ入ろうとする。
「右手、痺れ」
十夜が止める。
「持てる」
「長くは」
「頭側なら」
「本人へ訊く」
レムは息を整えようとしている。
痛みで顎が震える。
「竜胆さんが頭側を支える。受けますか」
「受けます」
「右手の感覚低下があります」
「知っています」
「どこまで」
「記録で」
「現在は、本人申告で五割」
「受けます」
条件を言い直す。
迅はレムの肩甲部と後頭部を支える。
投げる手ではない。
七歩の拳でもない。
「動かす」
一。
二。
三。
担架へ。
レムが声を漏らす。
「止める?」
「続けて」
「理由」
「この姿勢の方が痛みが少ない」
「受領」
右脚を伸ばしたまま、担架へ固定。
医療係が、役札を外そうとする。
「外さないで」
レム。
「衣装が膝固定へ干渉します」
「役札だけ」
「なぜ」
「事故時の立場」
七瀬が介入する。
「残すなら、医療札と並べる。役札だけを正面にしない」
「私が試験官だったことを消さないで」
「消さない。負傷者であることも小さくしない」
胸へ二枚。
《試験官》
《右膝負傷/荷重禁止》
同じ大きさ。
境界前で、医療搬送の許可が止まる。
「場外搬送は、運営責任者の署名が必要です」
受付係。
「緊急医療」
介助職。
「生命危険は現時点で」
「靱帯と血流評価が必要」
「規程では、生命危険または開放骨折」
カナタが、床に座ったまま笑った。
「膝が規程へ合わせて骨を出すまで待つ?」
「そういう意味では」
「署名者は」
「八城試験官」
全員がレムを見る。
本人が自分の搬送を許可する。
試験官として。
「利益相反」
七瀬。
「副署名」
「運営責任者は制御室」
「今、連絡不能」
「警備責任者」
境界の鍵を持つ警備員が来る。
「私に医療判断権はありません」
「判断は医療者。あなたは境界通過の責任」
七瀬。
「後で越権と」
「言われる」
「免責は」
「約束できない」
警備員は鍵を見る。
「八城さん。場外搬送を希望しますか」
「希望します」
「医療者。必要ですか」
「必要」
「私は、境界を開けます。時刻と理由を記録してください」
「受領」
鍵が回る。
規程が開けたのではない。
名を持つ人間が、後で問われる判断をした。
担架が境界を越える。
外へ出た瞬間、レムの誓痕が戻る。
視線が鋭くなる。
搬送者の次の三歩。
担架の傾き。
警備員が鍵を戻す手。
《型通り》が、既知の動作を先回りする。
「左側、二歩目で段差」
レムが言う。
搬送者が止まる。
実際に、床板が一枚浮いている。
「使える」
介助職。
「褒めないで」
「情報です」
「なら受けます」
能力が戻っても、膝は治らない。
しかし、負傷した人が出した情報を、思想の証明にせず使うことはできる。
七瀬は搬送の全景を撮らない。
鍵。
段差。
担架の四隅。
医療札。
役札。
顔は、本人が許可するまで映さない。
「私の能力が戻った瞬間は」
レム。
「記録した」
「膝が治らなかったことも」
「別欄」
「一緒に見せて」
「誰へ」
「事故調査」
「公開は」
「保留」
「受領」
病院への車両が到着する。
運転手が訊く。
「患者名」
「八城レム」
「役名」
「不要」
「所属」
「医療に必要?」
「請求先へ」
「運営と本人で分ける。今は治療」
七瀬が言う。
運転手は請求欄を空けた。
空欄のまま、車は出る。
治療は、責任の決着を待たない。
責任は、治療したことで消えない。
レムの搬送後、境界は一度も全開にしなかった。
幅一・二メートル。
一人ずつ。
工具は前。
技能札は胸。
戻る時刻は入口で書く。
観客席から入った人々は、英雄の代わりにはならない。
設備技師は音声線を直す。
介助職は、担架へ乗る前の本人確認をする。
索具検査員は、轟の結びを無条件に信用しない。
子ども誘導経験者は、成人の子ども役へ「子どものように扱ってよいか」と訊き、拒否される。
読み上げ担当は、凱の声を繰り返すのでなく、聞こえなかった人の質問を戻す。
「南は通れない」
凱。
「なぜ」
読み上げ担当が返す。
「水深と流速」
「具体的に」
「中央四十六センチ。流速、測定中。膝以下でも転倒例あり」
「いつまで」
「解除時刻未定。十五分ごとに更新」
「誰が更新」
「水位記録班」
声が一方向ではなくなる。
指示が質問を連れて戻る。
観客だった人の一人が、英雄役の青年へ近づいた。
「私は運搬。あなたは」
「英雄です」
「技能」
「倒壊梁の持上げ」
「何キロ」
「訓練では」
「今」
青年は答えられない。
「持ってみる?」
「今、試すな」
イオが止める。
「疲れている。能力なし。重量不明。できると言わせる質問になってる」
運搬経験者が頷く。
「失礼。運搬補助、短距離。腰痛なし。あなたは、何を既にした」
「南から三人を誘導。木箱を一つ移動。左手を擦った」
「握れる?」
「握れます」
「医療確認後、軽い荷の仕分け」
「英雄役は」
「今の仕事へ関係ない」
青年は役札を裏返す。
《誘導》
《軽荷》
《左手擦過傷》
役を外した後も、誰かに仕事を与えられる。
ただし、本人が受けるかを訊く。
「やります」
「何分」
「十分」
「受領」
観客席側では、別の問題が起きていた。
事故と知らされた人々が出口へ向かい、北通路へ集中する。
警備員は、舞台へ入る鍵を回した責任を負いながら、今度は客席の流れを止める必要がある。
「全員、座席へ戻ってください!」
声が強くなる。
戻らない人がいる。
「家族が中に」
「薬が必要」
「帰りたい」
「手伝える」
「何が起きてる」
五つの理由を、一つの混乱へまとめられない。
七瀬は撮影機を客席へ向けない。
顔が多すぎる。
事故後、誰が何を選んだかを、映像だけで公開すれば生活へ戻れなくなる人がいる。
代わりに、座席列ごとの札を撮る。
《退出希望》
《待機》
《技能申告》
《家族確認》
《医療》
「本人の名は」
警備員。
「受付で限定記録。公衆映像は人数だけ」
「後で虚偽と言われます」
「二人で数える」
「誰」
「私と、あなた」
「私を信用する?」
「しない。だから照合」
警備員は一列を数える。
七瀬は別方向から数える。
退出希望、七十八。
待機、二百九十一。
技能申告、追加十四。
家族確認、六十五。
医療、十一。
重複がある。
「合計が合わない」
「人は一つだけ選ばない」