第434話 第十一章「再演を中止する」後編

 真鍮器具が温かくなる。

 強くはない。

 昔のように右腕へ力が満ちない。

 時計の針が進む。

 二十三時五十八分二十秒。

 轟の声。

「荷重、北へ二。南、抜けた」

 二十五秒。

「制動爪、一本目」

 技師。

「入った」

 二十八秒。

「二本目、半分」

 三十秒。

 能力が働く。

 主軸の回転が、一度だけ抵抗する。

 金属が鳴る。

 動力が切れる。

 惰性へ移る。

「手を離すな」

 イオ。

「能力が止めるのは時刻。爪を入れるのは人」

 三十五秒。

 制動爪、二本目。

 入る。

 四十秒。

 主軸が遅くなる。

 五十秒。

 住宅模型の微振動が消える。

 二十三時五十九分零秒。

「停止確認」

 轟。

「温度」

「下がる」

「再回転」

「なし」

 イオは時計を外さない。

 零時。

 真鍮器具の温かさが消えた。

 右腕を曲げる。

 普通に曲がる。

 重い。

 痛みはない。

 強化だけが来ない。

 もう一度、終了を命じようとする。

 何も起きない。

「イオ」

 凱。

「何」

「聞くべきか分からない」

「じゃあ聞かない」

「分かった」

「それも早い」

「座るか」

「命令?」

「椅子がある」

「座る」

 イオは動力室の床へ座った。

 同じ作業着。

 左右の違う靴。

 真鍮器具。

 能力がなくなったことを、意味へ変えない。

 巻上機は止まった。

 それは、能力だけの仕事ではない。

 能力がなくなったこととも、別の事実だ。

 カナタは制御室で、止まった舞台時計を見ていた。

 三時七分。

 機構が実際に止まった時刻。

 再演中止の二時三十六分とは、別の事実だ。

 針をどちらへ置くかは、まだ決めていない。

 零時を過ぎても、その針だけは進まなかった。