第450話 第七章「証人席は床」後編
審理は五件終わった。
即時退所、二。
期限付き残留、二。
医療移送の検討、一。
結論はそろわない。
机も、椅子も、そろわない。
一件目は配膳板。
二件目は寝台。
三件目は床。
四件目は車椅子。
五件目は声を出さず、文字板だけ。
審理官は、外套を脱いで配膳箱へ掛けた。
「ここを法廷と呼ぶことには、まだ抵抗があります」
タマキが言う。
「呼ばなくていい」
「公的記録へ名称が必要です」
「旧配膳室」
「審理場所として」
「旧配膳室」
「機能が分からない」
「一月六日まで、審理」
「では、《旧配膳室・一月六日までの審理場所》」
「長い」
「正式です」
「さっきの仕返し?」
審理官が初めて笑った。
「少し」
タマキは白い床線を一本、剥がした。
車椅子が通る。
通過後、また貼る。
同じ位置ではない。
二センチずれた。
施設職員が言う。
「線がずれています」
「車椅子、通った」
「元へ戻してください」
「元の位置、車輪跡」
「では清掃後に」
「今、審理」
「二センチで形式が」
審理官が止めた。
「証人位置を、床の継ぎ目から三十センチと記録します。線の絶対位置ではなく、通路を妨げないことを要件に」
タマキが聞く。
「変えた人、誰」
「私です」
「書いて」
審理官は、自分の名を公開しないと選んでいる。
だから、職務番号を書く。
変更理由。
時刻。
有効期限。
床線は、権威に従って動いたのではない。
車椅子が通ったから動き、その理由を審理官が引き受けた。
タマキは二センチずれた線を、掌で押さえた。
床は動かない。
けれど、床の意味は、人が通るたびに少しずつ動く。