第460話 第十二章「出所ではない自由」後編

「三秒」

「数える?」

「時計ある」

 真鍮装具が三度、振動する。

 イオは立つ。

 冷気の中で、一度止まる。

 寒いから。

 自由を噛みしめるためではない。

 午前九時十八分。

 B棟のB-51は、施設内残留を選んだ。

 薬は二日分。

 住居の鍵は返却されていない。

 外に、会いたくない相手がいる。

 残留期限は、一月八日午後六時。

 内側開錠具の取り付けを、今朝まで保留していた。

 久我が扉の外に立つ。

「触る?」

 B-51の手が、配膳口から出る。

 回転つまみに触れる。

 右へ。

 扉が少し開く。

 左へ。

 閉まる。

「重い」

「調整できる」

「軽すぎると、勝手に開く?」

「開かない」

「昨日、開いた」

「これは別」

「別、多い」

「多い」

「この鍵、私の?」

「使う権利、あなた。設備、施設。外側鍵、担当者。全部、別」

「私が閉めたら、閉じ込められたことになる?」

「ならない」

「記録は」

「あなたが閉めた。期限まで残る。変更窓口、いつでも」

「夜中でも」

「当直」

「当直が断ったら」

「非常紐。開錠ログ。朝の監査」

「それでも出られなかったら」

「違法」

「違法って言えば、扉開く?」

「開かない。だから、内側」

 B-51は、扉を一度、全開にした。

 廊下を見る。

 白い壁。

 床線。

 透明な開錠ログ。

 久我。

 看守。

 外門は見えない。

「今日、出ない」

「受領」

「明日、変えるかも」

「受領」

「賀茂所長、いない?」

「いない」

「戻る?」

「権限なし」

「人として」

「分からない」

「分からない、書いて」

 久我は方眼紙へ書く。

《賀茂冬実が私人として施設へ再訪するかは未定。権限ある再入場は不可》

 B-51が読む。

「長い」

「真琴、うつった」

「嫌?」

「少し」

 B-51は笑わない。

 扉を内側から引く。

 金属が枠へ収まる。

 回転つまみを左へ回す。

 鍵が掛かる。

 外からではない。

 B-51は、配膳口から期限札を差し出した。

《一月八日 午後六時》

 久我は受け取る。

 扉の外側へ掛ける前に、内側の写しと時刻を照合する。

 門の外で立ち止まったイオには、その鍵の音が聞こえない。

 それでも、白い壁の内側で、一人が自分で閉めた扉の外へ、期限だけが渡された。