第466話 第三章「停止反対」後編

「私は私の代表」

「全員分の欄は作れません」

「紙が足りない?」

「判断が成立しません」

「紙より狭い判断だね」

 冬城は返事をしなかった。

 凱は二枚の白紙を持ち上げた。

 破らない。

 裏返す。

 裏は何も書かれていない。

「ここへ、本人の条件を書く」

「正式書式ではありません」

「正式にする」

「できません」

「できないと決めるのは、今は誰だ」

「私です」

 凱は冬城を見た。

 元王と、決裁者。

 能力を失った者と、成人して能力を得た者。

 似ているのは、力の有無ではなかった。

 自分の判断を、街の形だと思えるところだ。

「なら、あなたの名で拒め」

「私は、中央決裁者として――」

「役割じゃない。名で」

 冬城は一秒、黙った。

「冬城征士郎が、正式書式外の本人条件欄を拒否します」

 七瀬の撮影機が回っている。

 時刻は十五時二十七分。

 凱は白紙の裏へ、最初の線を引いた。

 署名欄ではない。

《私は設備停止に反対する。ただし、反証を他者へ送る処置には同意しない》

 縫製工が、自分の手で書いた。

 名前の代わりに、本人が選んだ識別印。

 次の人が並ぶ。

《再起動を希望する。反証転嫁は拒否する。仕事復帰の保証がなければ処置を保留する》

 次。

《停止に賛成。暖房の代替が来るまで自宅区画は止めない》

 次。

《説明を今日は聞かない》

 白紙の裏は、すぐに足りなくなった。

 価が追加の紙を買ってきた。

「紙代は」

 凱が訊く。

「中央へ請求」

「払わなかったら」

「未払い欄へ書く」

「強いな」

「腰は弱い」

 価は座ったまま、紙を配った。

 冬城の二案は、机の端へ残った。

 表には、整った署名欄。

 裏には、書き切れない条件。

 夕方の風が吹くたび、表と裏が交互にめくれた。