第510話 第一章「暫定命令」後編

「受け取る。ただし、地位による回答だったと記録する」

「命令してよい場面は」

「ありません」

「緊急時も」

「救命上の短い指示は、命令権ではなく現場行為として記録」

「面倒だな」

「王だった頃より」

「王の頃は、面倒を他人が書いた」

「今は自分で」

「書く」

 タマキには、文書配送。

 送り主。

 受取人。

 目的。

 公開範囲。

 料金。

 不達時の戻り先。

「能力を使う前提?」

 タマキ。

「いいえ」

「使うかどうかは」

「あなたが条件を確認して決める」

「急げと言われたら」

「断れます」

「断って人が困ったら」

「困った事実と、断った理由を分けて記録します」

「無料にしてと言われたら」

「依頼者へ戻してください」

「御厨朝さんへ?」

「はい」

「役所から料金取るの、好き」

 朝は金額欄を空白にしない。

 タマキが一件ごとに書く。

 放送所のカナタからは、通信紙が届く。

《私は説明役であって、賛意の収集役ではない》

《視聴者の退出を失敗として罰しない》

《録画を勝手に流し続けない》

《足首の悪化時は交代する》

 最後の一行だけ、筆圧が強かった。

 イオからは、短い返答。

《公式一覧にいない人から数える》

 朝は、それぞれの紙を一冊へ綴じなかった。

 迅の口頭記録。

 七瀬の撮影条件。

 凱の権限否定。

 タマキの料金表。

 カナタの出演条件。

 イオの調査範囲。

 別々の紙のまま、同じ机へ置く。

 班と呼べば、一つの命令系統に見える。

 仲間と呼べば、拒否しにくくなる。

 だから、朝はまだ名前を付けなかった。

 誰も、朝の部下ではない。

「私の協力者、と呼んでよいですか」

「範囲」

 タマキ。

「この命令群の調査」

「終了」

「四月三十日までを上限。前に終われば、その時点」

「料金」

「あなたの配達は個別」

「無料にしないで」

「しません」

「受領」

 迅が歩き出す。

「最初、どこ」

「発行部署」

「名前」

「中央危機調整局」

「人の名前」

「まだ分かりません」

「探すか」

 迅は、閉じた庁舎扉の蝶番を見た。

 朝は、黒い杖を出す。

 杖。

 右足。

 間。

 左足。

 迅は、朝の歩幅へ合わせない。

 先へ行き、扉を押さえる。

 朝は自分の速さで通る。

 扉の向こうで、端末が一斉に鳴った。

 紙送りの音。

 一枚。

 二枚。

 三枚。

 白い命令書が、七つの部署から同時に吐き出される。

 午前九時十二分。

《更新認定――安全上必要》

 失効まで二十二時間四十八分ある命令が、既に次の二十四時間を得ていた。

 命令には脚がない。

 だから、人の手を借りて走る。