第517話 第五章「期限切れを待てない」前編

時計は、誰にでも同じ速さで進む。

 水科イオは、その言い方を信用していない。

 同じ二十四時間でも、薬が切れる人には長い。

 仕事を止められた人には高い。

 扉の内側へいる人には狭い。

 時計は平等でも、待つ人間は平等ではない。

 四月二十二日、午前六時十分。

 明日班の作業室には、四十八個の時計があった。

 二月の中央能力回収炉停止後、別々の時刻で止めた時計。

 能力の反証を他人へ移していた設備が、誰の時間を使っていたかを忘れないための物だった。

 動いている時計は、一つ。

 壁の振り子。

 一拍遅れる。

 イオは、その遅れを直していない。

 正確な時計は役に立つ。

 遅れる時計は、人が見直す。

「暫定命令は二十四時間で切れる」

 中央危機調整局の職員が言った。

 名前は石上忠。

 赤錆大工場の停止騒動以来、工場や設備の安全記録を手伝ってきた男で、今は期限表の臨時集計に呼ばれている。

「何もしなくても、待てばいいんじゃないか」

 イオは、右手で鉛筆を回した。

 能力を失った右腕。

 普通の重さ。

 普通の疲れ。

「待っている間に、何が起きるか数えた?」

「更新を止める方が先だろ」

「質問に答えて」

「数えてない」

「正直で助かる」

「褒めてないだろ」

「記録」

「みんな、その言い方するようになったな」

「便利だから」

 イオは机へ五種類の札を並べた。

 丸穴。

 三角穴。

 四角穴。

 二本切れ込み。

 縁へ細かな刻み。

 色は使わない。

 手触りだけで分けられる。

「七十二本を、目的で五群へ分けた」

 丸穴――医療、十四本。

 三角穴――給水、十二本。

 四角穴――移動、十七本。

 二本切れ込み――集会、十三本。

 縁刻み――監視、十六本。

「合計」

 石上。

「七十二」

「数は合ってる」

「合わなかったら、ここへ来る前に帰る」

「帰れるのか」

「移動命令で確認が必要」

「冗談?」

「半分」

 机の反対側で、タマキが札の端を触っている。

 左耳へ薄い保護具。

 急に振り向かない。

「この穴、目的?」

「そう」

「送り先じゃない」

「命令に送り先が書かれていないのが多い」

「誰へ出した?」

「元能力者、関連者、指定区域住民、医療機関、運送者。広すぎて、受取人が一人じゃない」

「配達できない」

「だから困ってる」

 タマキは四角穴の札を一枚取った。

《元能力者移動先確認》

「私も?」

「能力を持つ今は、対象候補」

「前は無能力」