第520話 第六章「朝の加担」後編

 朝は止めなかった。

 朝が止めたのでもない。

 自分の文を説明し、用途を拒否した人と、医療判断をした人と、端末を操作した人が、それぞれの範囲を選んだ。

「働いた?」

 迅。

「はい」

「赦された?」

「いいえ」

「じゃあ、続けろ」

「受領」

 午後二時四十五分。

 作業室の壁へ、新しい責任表が貼られた。

 朝の名前は、二か所にある。

《調査協力者――文案履歴・端末仕様》

《審理対象者――自動更新提案・氏名別ログ化・三月の同調命令》

 同じ名前。

 同じ人。

 役割を分ける。

 人間を二人にしない。

 朝は壁の前で、立っていた。

 十分を超えた。

 右足の感覚が薄くなり、杖へ体重が寄る。

 迅が椅子を蹴って寄せた。

「座れ」

「まだ説明が」

「座って言え」

「命令ですか」

「嫌なら立って倒れろ」

「二択が不適切です」

「三つ目」

「座って、説明を続ける」

「それ」

 朝は座る。

 迅は、壁の責任表を見た。

「外さない」

 石上が睨む。

「赦すのか」

「違う」

「じゃあ、何で」

「こいつが書いたところ、こいつに読ませる」

「自分に都合よく読む」

「他の紙と比べる」

「嘘なら」

「嘘って書く」

「殴らない?」

「今は」

 朝が迅を見る。

「私へ働け、と?」

「働け」

「赦しではない?」

「知らない」

「協力の受領?」

「終わるまで」

「期限」

「七十二本に名前が戻るまで」

 真琴が口を挟む。

「四月三十日を上限にしてください」

「じゃあ、それ」

「自動更新は」

 朝。

「しない」

「受領」

 カナタが放送所の扉へもたれている。

「いい台詞だった」

「どれ」

「働け」

「台詞じゃない」

「短くて、条件が落ちてる」

「真琴が拾った」

「役者より、共同作業が上手い」

「お前は何してた」

「見られない放送」

「見られた?」

「聞かない約束」

 カナタは笑う。

 朝の説明が成功したかは、誰も決めない。

 壁には、彼女の名前が二つ残る。

 一つは仕事のため。

 一つは審理のため。

 どちらにも、肩書きだけの空欄はなかった。