第562話 第三章「記録庫襲撃」後編

《出発確認》

《中間通過》

《到着確認》

《未到着時の戻り先》

「四つ目が必要か」

 警備員が尋ねる。

「必要だ」

「届かなかった証拠は、探すでしょう」

「探す人間が、どこへ戻すか決める前に書く」

「盗まれた場合は」

「盗難記録」

「焼けた場合」

「焼損記録」

「なくなった場合」

「紛失記録」

「全部、失敗です」

「失敗を同じ箱へ入れるな」

 迅は立とうとして、医療担当に肩を押し戻された。

「図面担当は座位」

「歩いて確かめる」

「縫合から一時間です」

「頬で歩かない」

「人は歩くと顔も動きます」

 薄墨が紙板を上げた。

《私が歩く》

 七瀬が言う。

「自分の古い抜け道を、自分で安全認定?」

《認定しない。測る》

「誰が確認」

《凱》

「膝」

《警備員二人》

「警備側だけ」

《綺理》

「資料から離せない」

《面倒》

「あなたが言うな」

 結局、薄墨、警備員一人、保管係一人、城外の石工一人が歩いた。

 旧扉一。

 開閉可能。

 内側の蝶番が摩耗。

 箱幅六十八センチまで。

 旧扉二。

 外から開かない。

 火災時は壁板を外せるが、工具位置が旧図面と違う。

 旧扉三。

 薄墨が過去に原版を隠した道。

 床下同期管の真上を通るため、台車禁止。手運び二人。荷重上限十八キロ。

 迅は戻ってきた測定票を読み、図面へ書き込んだ。

「第三は使わない」

 薄墨が紙板を出す。

《使える》

「使えると、使うは違う」

 七瀬が横から言った。

《知っている》

「昔は?」

《知らなかった》

「嘘」

《知っていて、使った》

 真琴は、その訂正も図面の欄外へ付けた。

 新しい搬送図は、きれいではなかった。

 赤線。

 黒線。

 戻り矢印。

 使えるが使わない道。

 使うには二人の確認が要る道。

 途中で本人が帰るためだけに空ける道。

 図面は、城を守る形より、城から離れる形の方が多くなった。

 迅はそれを見て言った。

「城の地図に見えないな」

 真琴が答える。

「城を審理場として使うための地図です」

「違いは」

「帰る道に、城主の許可が要らないことです」

 使用可能と判断した第一経路では、空箱を使った搬送試験を行った。

 中身は砂袋、十七・四キロ。

 実際の最重量原本箱より六百グラム軽い。

「同じ重さにしないのか」

 迅が尋ねる。

「最重量箱は二人搬送です。単独限界を先に測ります」

 警備員が箱を持ち、狭い曲角へ入る。

 急いだ。

 右肩が壁へ当たり、箱の左角が床下同期管の点検蓋へ落ちかける。

 迅が椅子から半歩だけ出て、左前腕で箱を受けた。

 頬の縫合部が引かれる。

「歩くなと言いました」

 医療担当が言う。

「半歩」

「顔も半分だけ動いたと?」

「だいたい」

 試験は失敗として記録された。

 警備員は謝った。

 真琴は、謝罪の下へ原因を三つ書く。

《開始合図が早い》

《曲角に受け台なし》

《単独搬送者が時間短縮を優先》

「私の不注意です」

 警備員が言う。

「それも四つ目へ」

 受け台を置き、二度目。

 今度は箱を一度置く。

 持ち替える。

 到着側が受領してから、出発側が手を離す。

 所要時間は一回目より四十七秒長い。

「遅い」

 迅が言う。

「壊れない」

 凱が答えた。

「名言?」

「搬送結果だ」

 失敗した一回目の時間も消さず、成功した二回目の横へ残した。

 薄墨が診療室の入口で待っていた。

 紙板に、一行。

《自分の記録九点、無事》

「七瀬の母の記録は」

 薄墨は少し考え、下へ書き足した。

《四十七番も》

「ついで?」

《同じ箱にあった》

「そういうことにしとく」

《好意へ編集するな》

 迅は、縫った頬を動かさないように笑った。

 礼拝室から回収された時計箱には、血も指紋もついていた。

 襲撃者のものだけではない。

 運んだ技師、封印した書記、受け取った鑑定者、守った迅、旧経路を開けた薄墨。

 箱は、誰か一人の正しさを証明しない。

 十二本の針が、同じ時刻を指し続けていることだけを、証明していた。