第586話 第三章「集まらない仲間」後編

 綺理の返答だけ、平常だった。

「強い」

 迅が言った。

「何が」

「最初からつながってない」

「つながらないことを強さにしないで」

 七瀬が言う。

「届かない情報もある」

「じゃあ、弱い?」

「別の危険」

 轟は九系統の安定器を外した。

「三つに分ける。移動・生活・限定」

「またまとめる?」

「電気の話だ。北部、剛嶺、水上を移動。厨房、放送、中継を生活。病院、記憶、平文を限定」

 真琴が首を振る。

「病院と記憶を同じにすると、病院の緊急電力で記憶庫の通信が優先される可能性があります」

「なら四つ」

「増やすほど管理が」

「管理する人も分ける」

 七瀬は固定台の予備電池を持ち上げようとした。

 右手で取手を掴む。

 重さは八キロ。

 左肩へ、引かれる痛みが走った。

 手を離す。

 電池が床へ落ちかける。

 若い記録係が両手で受けた。

「持ちます」

「私が位置を」

「言ってください」

「でも、これは私の機材」

「だから、壊したら私の名前を書きます」

 七瀬は電池から手を離した。

「床から三十センチ。水上回線へ。端子は右じゃなくて左」

「見えてます」

「身体がそこへ行くのは別、って言う?」

「玉樹さんの台詞です」

「流通してるな」

 記録係は電池を運んだ。

 七瀬が高い位置の接続板へ手を伸ばそうとすると、今度は轟が長い柄を渡した。

「上げない」

「届く」

「届くと、持てるは別」

「みんな、身体に詳しくなりすぎ」

「台帳が口軽い」

 南野の言葉まで流通している。

 午後七時三十二分。

 四つの独立電源が組まれた。

 移動系は足踏み発電の補助。

 生活系は厨房の余熱発電。

 病院は病院自身の電池から、公開可能な音声だけを送る。

 記憶庫は文字伝令を継続。

 平文室は紙の写しを二人の走者が運ぶ。

 復旧後、九つの画面が一度に戻ることはなかった。

 北部の足元映像。

 十二秒後、放送所の技術表。

 水上は映像ではなく、水位を叩く音。

 七瀬は、全てが揃うのを待たずに記録を再開した。

「欠落時間、十九分四十六秒」

 真琴が言う。

「欠落じゃない」

「外部記録としては欠落です」

「現地原本はある」

「では、《中央受領欠落。現地原本継続》

「うん」

 七瀬は停電中の黒い画面を削除しなかった。

 何も映らない十九分四十六秒。

 そこへ英雄の説明音声を重ねない。

 字幕だけ。

《この間、中央記録室は受領できなかった。各現場の仕事は、別媒体で継続した》

「これを最初に置く?」

 記録係が聞く。

「最初に置くと、停電を教訓にする」

「最後?」

「最後に置くと、克服したみたいになる」

「どこへ」

「索引へ。見たい人が選ぶ」

 七瀬は九つの接続灯を見た。

 今度は、同じ電源へつながっていない。

 同時に消える美しさも、同時に点く美しさも失った。

 その代わり、一つずつ壊れられる。

 壊れた場所だけを、直せる。

 午後八時〇三分。

 九つの接続灯が点いた。

 同時ではなかった。

 北部が先。

 厨房が三十二秒後。

 水上は二分遅れ。

 記憶庫は映像灯ではなく、文字受領の小さな白点。

 灯りの高さも、色も、点滅の速さも違う。

 七瀬は、それらを一つの画角へ入れなかった。

 一つずつ、別々に記録を始めた。